第42話
お別れを天国の順ちゃんに伝えていると、目から涙があふれ落ちた。それを目にした下柳さんが優しく肩を抱いてくれる。それから寄り添うように車に戻ると下柳さんにキスをされた。唇に触れるか触れないようなキスで厭らしさは微塵も感じない。その瞬間、私はこのままホテル行って下柳さんに抱かれても良いとさえ思った。
怪しげなネオンに目もくれず車は来た道を戻り続けた。下柳さんは何事もなかったかのように話し始める。
「カーブを抜ける勢いが良すぎて、おつりでももらったんかな?」
「おつり?」
下柳さんは私の問いに丁寧に説明してくれた。
「あるいは、走り抜けたと思った時に何かが飛び出してそれを避けたとか。ほら、この辺は山だから狸とかいろいろ出るからね」
順ちゃんなら有り得るかもと、私は少しだけ頬を緩ませた。いずれにしても会えないことには変わりはない。
ありがと‥‥‥順ちゃん。
「また、何かあれば力になるから」
私を送り届けた下柳さんは最後にそう言って車を発進させた。やはりいいオジサンだ。
暑いと騒いでいたと思ったら今度は寒いで、その寒さもいつの間にか忘れるほど季節の流れは早く、私は高校二年生に進級した。
「梨絵ちゃん、合格おめでとう!」
受験間際まではあれこれ悩んでいた梨絵も晴れて高校一年生。誇らしく見えるせいか胸もちょっとだけ大きくなったような気がする。初体験も済ませたことだし、白いパンツともお別れして、新たな恋でも探して欲しい。
とは言え、梨絵も私と同様の女子高だ。男子との接点は思った以上に少ないので、こんな時だけは共学にしておけばと後悔したりもする。男子校でも同様の話になるとか。
「なんだか中学生見ると子供に見えますよね、先輩」
「もう現金なんだから。ちょっと前までその子供だったくせに」
急に生意気なことを耳にして私は笑いながら梨絵の胸に手を伸ばす。
「あれ?梨絵ちゃん、ちょっと大きくなったんじゃない?」
「四センチ!」
そう言ってニッコリ笑う梨絵に、まだまだこれからと私は胸を張った。梨絵の視線が胸に注がれる。
「良いな~。先輩くらい大きくなりますかね?」
「なるなる。よ~く揉んでいればね。正しくは揉まれていればかな」
「いやだ~っ、先輩ったら」
男子には聞かせられない話も意外と女子にはある。
梨絵の恋の心配をしてみたものの、ポッカリ空いた穴は私の恋を閉鎖的に変えたようで友達からの紹介話も適当な理由を付けて断り続けた。歩いていても声を掛けられない。きっと男を寄せ付けない気配でも出ているのかもしれない。
考えてみたらあっちもご無沙汰だ。たまに恋愛ドラマとか見て手を伸ばすこともあるけど、今一つ盛り上がれないので以前から見ると回数も減った。
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