第38話

 平日に電話が無いことはお約束だけど、ひょっとしたら翌日にはあるかもしれないと電話の前で待っていた。結局ベルは鳴らずお店にも顔を出さなくなった。


―――「今週は来なかったわね」


 雪子叔母さんも気になったようだが、直接の理由は訊ねて来なかった。

 叔母さん‥‥ごめん。少しの間だけ売り上げダウンを許してね。その代わり元に戻ったら毎日来させるから。私は心の中で叔母さんに詫びた。


 電話が鳴ったのは土曜の夜だった。九時少し前で珍しいと思いながら受話器を上げる。悪かった。なんていうしおらしい言葉が頭の中に浮かんだ。しかし、相手は順ちゃんではなく梨絵だった。



―――「え!?‥‥‥そうなの?」


 梨絵が顔を見せたのは日曜の十時。思わずどちらからともなく笑みが零れた。


「話を聞いて昨夜はグッスリ寝られたよ」


 自然と声も弾む。


「それでいつ来たの?昨日?」

「ええ。電話のちょっと前に。だから先輩に電話で知らせておいた方が良いかなって」


 梨絵なりに気を遣っているんだなと安堵という息を吐き出す。穏やかな気分だ。


「あれから今村さんには会ったんですか?」

「月曜の夜にね。黙っていようとずっと思ってたんだけど、つい喋っちゃった」


 何のことかと察した梨絵はやや目を見開いた。


「それで‥‥なんて?」


「なんて、というか、聞いてて頭に来ちゃったからもう会わないって怒鳴ってやったの」


 自分が原因で別れたのかと梨絵が視線を落とす。


「大丈夫よ。そのうち悪かったなんて謝ってくるだろうから。それにあのくらい言ってやった方が良い薬になるだろうし――」


 何事もないとばかりに私はあっけらかんと答えた。月末の三十日は順ちゃんの十九回目の誕生日。その頃には元通りになっているはず。プレゼントも用意して置かなきゃ。さりげなくカレンダーに目を移し、私は黙って笑いを堪えた。


 言われたことを忠実に守っているのか、意地にでもなっているのか、順ちゃんからの音沙汰は無かった。一日一日と時間は過ぎていく。誕生日の前日にも、期待した当日にも連絡はなく渡そうと用意していたプレゼントを見つめる。


 言った手前、ラーメン屋にも行けないし電話も出来ない。せめて誕生日くらいは電話して欲しかった。うっかりしてたなんて理由でもいい。



 順ちゃんの‥‥‥バカ。


 十月に入って数日が過ぎた。湯気をあげるご飯茶碗に手を伸ばそうとした時、チラッと新聞を見ていたお母さんが顔をしかめた。


「浅城山で事故だって、十九歳って言ったら徹と同じ年じゃないの」


 何気に聞いていたその二つの言葉が頭の中へ電気を走らせた。渡してもらった新聞に目を走らせる。記事は地方版の下の方に小さく出ていた。

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