第28話
「これ後ろじゃなくて前なの」
「前?」
「そう、フロントホック」
言われて見ても外し方がわからないみたいで、ただじっと眺めているだけ。仕方ないので教えてあげた。
「こうして真ん中に人差し指を入れて―――」
なるほどと感心したように見ていた今村さんは、私の教え通りに指を動かすとブラが外れて胸が露わになった。すると待ちわびていたように顔を寄せて来た。今村さんが腰のあたりに当たる。既に戦闘態勢。
ただ、ショーツを脱がされるときは抵抗を感じた。これだけ明るいと女性なら恥ずかしいし、どんな状態なのか自分でも察しがつくから尚更だ。足を広げて見ようとするのを寸でのところで阻止してなんとか昼間のお披露目は避けたけど、今村さん自身には直接伝わっているはず。
私は近所迷惑にならない程度の声を出して、今村さんに合わせて揺れた。
―――「バイトは良いと思うよ。働いて間もない俺が言うのもなんだけどさ。社会勉強にもなるし。そのうち惚けて行ってみようかな」
「別に良いけど、少し慣れてからにしてね。じゃ、少し早いけど行ってみる」
今村さんの家を出たのは二時半ごろだった。真っすぐ駅に向かって自転車を漕ぐ。気持ちガニ股になるのを堪えながらアルバイト先を目指す。初日から遅刻じゃ洒落にならない。
ランナウェ~♪とぉ~っても好きさぁ~♪
つい口から歌が飛びだす。聖子ちゃんも可愛いし歌も好きだけど、私はどちらかというと、黒塗りの彼らの歌の方が好きだ。
駅前にある喫茶店は、お母さんの妹が経営していて、高校生になったことからアルバイトに来ないかと、夏休みの前に電話が掛かって来たのである。
叔母さんの名前は
私も暇だったし、お金も欲しかったので迷うこともなく返事をした。お店の名前は『
邪魔にならないところに自転車を止め、手書きと思える看板に目を向けながら扉を引くと、上の方で来店を告げるかにカランコロンと音が鳴った。すると叔母さんと目が合い、待っていたとばかりに笑顔で迎えてくれた。
「叔母さん、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくね。それとここでは叔母さんはまずいから店長って言ってちょうだい。見た目は確かにオバサンだけどね」
「ハイ、わかりました。叔母さん…あ」
プッと一つ笑って叔母さんはお店の名前が入った黒いエプロンを渡してくれた。
「初めはお客さんの注文を取ったり、出来上がったものを運ぶ程度でいいから。あとは洗い物とかね」
早速カウンターの中に入ってエプロンを纏う。それから手を洗って店内に目を向ける。カウンターには椅子が五つ。それと二人掛けと四人掛けとのテーブルが合わせて五つあって、暇な時間帯なのかお客さんは一人だけだった。
窓際の二人掛けのテーブルに座っている。
忙しい時間帯だと教えづらいと思って、あえて初日はこの時間を指定したのかもしれない。
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