第25話
「ここは何十回も走っているから。実は先週も走りに来たんだよ」
「先週も?」
「水曜だったかな。仕事終わってからだから夜中だけど」
「夜中‥‥‥‥もしかして女性と?」
今村さんはくだらないとばかりに鼻で笑う。私だって訊かなくてもわかってる。
「本気で走ろうって時は一人が良いんだよ。事故っても気が楽だしね。それに今日は川島さんも―――」
きっと凄いスピードで駆け下りてくるのかもしれない。でもそんなことはどうでもいい。私にはその呼び方の方が耳に残った。
川島さん‥‥‥‥。距離を感じるな~。
まっすぐ帰るのかと思ったら車は途中で脇道にそれた。曲がる少し手前にはホテルの看板がいくつか表示されていたので行き先はピンと来た。あまり高そうなホテルじゃなかったけど、今村さんとならどこでもいい。きっと予感めいたものも感じていたのかもしれない。既に私の方は準備の気配がする。
部屋に入るなり私達は唇を合わせた。急かされるように服を脱がされる。ブラのホックに手が伸びる。今までは浴衣だけだったから帯を解くだけだった。だからブラを外されるのは初めて。こんな瞬間にも女性経験が伺える。
優斗ほど手間取らないし、浮気男ほど素早くもない。それがなんだか私を安心させる。生まれたままの姿で身体を寄せると、私の御へその辺に今村さんが当たり思わず腰を引いた。準備は整ってるどころか整い過ぎてるみたいと私はクスッと笑った。それからようやくベッドへと移動する。
今村さんの顔を下から見上げようとした時、腰の辺りを掴まれ私の身体はぐるりと回転し、四つん這いの姿勢にさせられた。もうみんな見えちゃう。そんな恥ずかしさも興奮を煽って獣のような声をあげ続けた。出来ればもっと可愛らしい声を出したいけど、今村さんだって悪い気はしてないみたい。
身支度を整えてから私達はホテルをあとにする。ただ、車が敷地から出る時はちょっと気を遣う。こんなところを友達にでも見られたら『ヤリマン』情報が学校中に流れてしまう。
市内のホテルじゃないのでまさかとは思うけど、一応用心して少しの間だけ俯くことにする。
「面白かったよ。じゃ―――」
軽く右手を挙げて白い車が視界から遠ざかっていく。有意義というよりも有意義過ぎる一日だった。小学生の頃なら絵日記に描いてもよさそうなくらい。もっとも描けない部分はたくさんある。
五分くらい歩いて家にたどり着くと私は汗を流しにお風呂場へと向かった。付けたばかりの今村さんの匂いも落ちしてしまうのは寂しいような気もするけど、また付けてもらえばいいと隅々まで念入りに洗う。
ふと脇の下に指が触れた時ドキッとした。奇麗に剃ったと思ったのにともう一度指先で確かめる。たぶん今日は見てないはず。でも次は気を付けないと。
今村さんの家と勤め先はわかった。順一という名前も聞いた。思い切って順一って呼んでみようかとニヤ付いたのもつかの間、私と今村さんとの連絡手段がないことを知って愕然とした。
待ち合わせの場所と時間を約束した今日は問題なかったけど、次回の約束は何もしていない。私の家の電話番号も教えていないし、ラーメン屋に電話するわけにもいかない。
もしかして、このまま終わりなんてことは無いよね。
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