第24話
指定した場所まで歩いていくと、既に白い車が止まっていた。私よりも先に来たんだと無意識に速足になる。私の姿を確認すると今村さんはニコって笑ってくれた。私も笑った。
「待たせちゃった?」
「いや、俺も今来たところ」
乗り込む早々、奇麗に磨かれた車は交通量の多い二車線の道を走り出す。今村さんは白いTシャツにジーンズと昨夜とほぼ一緒。とは言えド派手な服装で呆気にとられるよりは全然いい。それともあまり服とかにお金を掛けない人なんだろうかと、流れる景色を見ながら同じ服だったことがない浮気男を思い出す。
「けっこう似合ってるっていうか、俺に合わせたとか――」
さりげなく呟いてから私の顔とスカートから伸びた足をチラッと横目で見る。お洒落を意識してあれこれ迷った割には、白のTシャツにジーンズスカートと地味な格好になった。
「ドレス着てドライブも変でしょ?」
そう言って笑いを誘ったものの、考えてみたらこの方がカップルって感じで良い。
「化粧もしてきたんか?」
「そうよ。だってデートだから」
「デートか…」
「違うの?」
「いや…デートさ」
他愛も無い会話でも楽しく感じられる。とにかく今村さんとは話が弾む。
お昼を食べようと目についたレストランに車を乗り入れる。並んで歩いていく姿はカップルそのものって感じで足取りも軽い。今村さんは私よりもニ十センチくらい背が高いだろうか。このくらいならあまり背伸びしなくても済みそうだ。
スパゲッティを食べてからしばらく走ると山道に入ったらしく、エンジンの音が騒々しくなった。今村さんのレバーを操作する手も忙しくなっていく。横目で運転するところをみるのもなんとなく楽しい。
「そういえば…梨絵ちゃんって言ったっけ。彼女怒ってなかった?」
山の上にある湖の周りを歩き出すと今村さんは思い出したように訊ねた。
「怒る?どうして?」
「いや…怒るっていうか…」
「おっぱい触ったから?」
あまりに直接的だったので思わず私に顔を向けた。
「いや、触ろうかな~とは思ったけど‥‥」
私は思わずわき腹をつねった。
「特には何も言ってないわよ。あの後も会ったけど普段と一緒」
それを聞いて安心したようだ。それから私達は歩きながらいろんな話をした。今村さんの家は駅の北の方で、家族と一緒に暮らしている。十八だから当たり前か。両親は共働きでお兄さんが一人いるとのこと。そのお兄さんは東京の方へ就職して滅多には帰って来ないと言っていた。
この辺は私の兄貴と一緒か。私の家は駅のずっと南で学校は西の方になる。多少回り道になるけど、通学は自転車なので学校帰りに寄れなくもない。それともう少ししたら駅前の喫茶店でのアルバイトも予定している。今村さんの家によってからアルバイト。そんなコースを一人で想像していた。
梨絵のことも気にしているようだし、近いうちに梨絵を連れて遊びに行くのも悪くないかも。梨絵が行きたくないと言ったらそれまでだけど。
山道の下りは私を楽しませようとしたのか、怖がらせようとしたのか、少しの間だったけどスリルを感じた。
タイヤがギャーッ!と音を立ててお尻の下がムズムズする。両足と両手に力を入れて身体を支える。
それでも今村さんの運転にはまだ余裕がある感じだ。
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