第23話
恋人達が歩むステップのように今日はキスからだった。二人きりなので大きいベッドがより広く感じられる。照明を絞ったせいで今村さんの顔は良く見えなかったが、声は良く聞こえる。優しく語り掛けてくれた。
お風呂から出た時は隅々まで拭いたはずなのに、部分的には拭き忘れたようになっている。今日は梨絵もいない。ただ口を開けて限られた空気を吸うだけと違って私は思う存分声をあげた。
今村さんの動きにベッドも激しく揺れたが、安っぽい音は聞こえなかった。
それからしばらくして私は今村さんの腕枕の中で余韻に浸っていた。こういう時間が心地良い。
「歳は秘密って前に言ったでしょ―――」と私は思い出したように口を開く。
「女性に訊くなって確か言ってたような」
口角を上げる今村さんに一旦私は視線を落とした。
「私…十六なの」
「ジュウ~ロク~ッ!」
目を見開いて今村さんは驚きの声をあげる。
「自分だって十八でしょ。二つしか変わらないわよ」
「来月は十九だから」
「それだってみっつ」
五十にでもなれば些細な違いなのだろうが、高校生と聞いてさすがに慌てたようだ。
「今更子供なんて言わないわよね?」
ことを終えた後だけに今村さんは黙ったままだった。
「それで梨絵ちゃんは中学三年の十五歳」
「ちゅ…中学生か」
同級生にしては幼いと思ったらしく、今村さんは再び驚きの表情を浮かべる。
「それで…どうだった?中学生の身体は?」
「身体?」
「そうよ。触ってたでしょ?」
「あ…いや‥‥‥‥」
「惚けたってダメよ、見てたんだから」
バツが悪そうに今村さんは枕に頭を戻した。
「それに梨絵ちゃんはまだ処女だから、もしもの時は止めようと思ってたの」
「そっか。だったら何もしなくて良かった」
「何も?」
怪しげに睨むと私の鼻をちょっと怒ったように突いてから唇を寄せて来た。
楽しいひと時はあっと言う間に過ぎた。どちらからも言い出さなかったが、恋人として動き出したことは間違いないと互いの表情から感じていたのではないだろうか。それをどう梨絵に伝えるか考えると、ちょっとだけ頭が痛くなる。でも隠したところですぐにばれる。いっそのこと今度会った時にでも話しちゃおうか。
身体だけの付き合いに今村さんも何か感じていたようで、休日になる明日の昼にドライブでも行かないかと、ホテルからの帰り道に誘われた。すぐさま私は首を縦に振る。どんな予定があろうともみんなキャンセルしようと思った。
多少寝る時間も必要だったので待ち合わせは十一時にした。途中でご飯でも食べてあとはドライブ。もしかしてその足でまたホテルに行くのかなってニヤニヤしながら、私はあれこれと服を選んだ。
今村さんと会うのはいつも夜ばっかりだったので、明るい昼間に同じ黒っぽい服も変だし、そもそもオシャレじゃない。少しは女の子らしい格好を見せてポイントをあげておくのも大事。それと学校へ行くのとは違うし、今回は昼間だからノーメイクは禁物とお化粧も念入りにする。
やりすぎて水商売ですかって思われても困るのであくまで控えめ。
ルージュも目立たぬ程度に。
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