第19話

 漂わせる気配からして今村さんは初めてなんだろうって思った。ホテルの中の駐車場に入ってもキョロキョロと周囲を見回して、どうにも勝手がわからないと言った具合だ。


 空いているスペースに車を止めると私達三人はすぐ脇の階段を上って薄暗い部屋の中に入った。既にエアコンで整えられた室内は仄かな光に包まれている。無事に支払いを終えた今村さんが部屋に戻ってきて、あれこれと物珍しそうに部屋の中を歩いて回った。


 ソファーの先には丸い大きなベッドが置かれている。その少し離れた場所にバスルームが見える。ガラス張りなので全部丸見えだ。ほとんど赤一色という色合いのバスルームは家のお風呂と違って見るからに派手だ。と言ってもこんな風呂は何度も見ているし何度も入った。もちろんそれは口にはしない。あくまで初めて見たような顔で眺めていた。


 ふと私は何かを感じトイレに向かった。薄々気が付いていたことを確認しに行ったのだ。案の定だった。それを見て私の頭に派手な色が浮かぶ。



「せっかく来て使わないんじゃもったいないし、汗掻いちゃったから私お風呂に入っちゃおうかな~」


 幾分か高いトーンで言いながらそそくさと浴室に入ると、お湯のレバーを捻った。大量のお湯が一気に噴き出してくる。これだけの浴槽だ。家庭用くらいじゃ日が暮れてしまうだろう。



 今村さんは丸いベッドの上で梨絵と一緒にテレビを見始めたらしい。ただ、こんな場所だ。ニュースを見るのもおかしなものだと家では見られないようなチャンネルに合わせていて、時折艶めかしい声が聞こえてくる。


 今村さんにしてみればちょっとした御ふざけなのだろう。でもやっぱり男。スケベはスケベだ。梨絵もベッドの上にいたが、さすがに処女には刺激が強すぎる。顔は画面から外れていた。


 お風呂のお湯も溜まったので私は気付かれないうちに服を脱ぎ、浴槽に身体を沈めた。溢れる音に反応したらしく今村さんがこちらに目を向ける。ガラス張りなのでまさに丸見えだ。


 私は少し刺激しちゃおうかと、湯面からお尻を突き出して見せた。食い入るような視線を感じる。ただ、それはほんの数秒だった。目のやり場に困ったのか、また今村さんはテレビを見始める。いずれにせよ落ち着かない様子。



 呑気に身体など洗ってるわけにもいかないと、早々にお風呂から出た私は備え付けの浴衣だけ羽織ってベッドの上に向かう。もちろん下は全裸。


 三人揃うと今村さんはテレビを消し「ちょっと寝るか」と言ってベッドの上に横たわった。まさかホントに寝るわけはないと思いながら、私は今村さんの右隣に、そして梨絵は左側に横になった。俗にいう川の字状態だ。


 耳に届く音は何もない。そんな時間が流れて行った。微かに届くのは誰かの呼吸の音。今村さんか、あるいは梨絵なのか。とにかく静かだった。



 ホテルに到着した時点では、ここで梨絵の処女を今村さんにと思っていた。でも階段を上るにつれ別の考えも浮かび始めていた。二人だけならまだしも、付添人みたいな私が居る中ではさすがにまずい。


 出来ればいい思い出にしてもらいたい。でもそれはきれいごとのような気もした。



 梨絵を抱かせたくないと私の下腹部が訴え始めていたのだ。

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