第17話
部屋の電気を消しガラス戸を静かに閉める。時刻は十一時二十分。たぶんこれくらいでちょうどいいはず。お店までの最短の裏道を梨絵と歩いた。時折生暖かい風が頬を撫でていく。
「パーマの人どうだった?」
パーマの人とは運転してた男性のことだ。
「どうって…言われても」
「あの人にあげちゃう?」
「も~っ!先輩は唐突なんだから」
まんざらでもない顔だ。と言っても暗くて良く見えない。だから声のトーンだろう。
予定してた時間に私達は裏の駐車場に辿り着いた。日曜の深夜とあってお客さんの駐車場にあるのは一台程度。こんな時間までラーメンを食べる人が居るのだと思いつつ、私達はつまらない話をしながら時を過ごした。
十二時になるとお店の周りの照明は消え、裏側にいる私達をさらに暗闇が包む。それでも意外と目が慣れているのか辺りは見える。どのくらい待ったのだろう。思っていた以上に長かった気がする。閉店後の後片付けの時間まで頭に入れなかったのは誤算だった。でも今は待つしかない。
「先輩、どれくらい宿題進みました?」
「どれくらい…って言われても、どれくらいなんだろう」
出るのは曖昧な答えでしかない。毎年こんな感じで夏休みの終盤に差し掛かる。今年はスッキリと新学期を迎えたい。そう願うもののこれがまたうまく行かない。勉強も大事。でも遊びも高校生にとっては重要なのだ。
とは言え、梨絵は受験生。こんな夜遊びに付き合わせていいものかと思ったりもする。青春は一度だけ。いつもそんな台詞で有耶無耶にしてしまうのも私の悪い癖か。
何やら声が聞こえて扉の締まる音が聞こえた。誰かが出てくる気配に私達は咄嗟に腰を低くした。南側には五台ほどの車が止められていたので、一応用心だけはしていた。うっすらとした月明かりの中にモアッというシルエットが映し出され、スポーティーな白い車のカギを開けようとしている。パーマの男性だ。思わず私は声を出した。
「ニャ~オ~ッ」
走り出して間もなくパーマの男性は苦笑を漏らした。
「まさかこの時間にいるとは思わなかったよ」
「びっくりしたでしょ?」
「そりゃ驚くよ」
驚かそうという狙いはひとまず成功したわけだ。でもそれは狙いの一つでしかない。
「この間一緒だった人はもう帰ったの?」
「あ~!
リーゼント風の男性は山上って言うのかと新たな情報を頭にインプットした瞬間、
「学生?」と思わず声が漏れた。
「そう、高校生。確か二年だったはず」
二年っていうことは私よりも一つ上なだけ。通りで軽い感じに見えるわけだ。
「そっちの子も若いんだろ?っていうか二人ともって言った方がいいか」
パーマの男性は一旦助手席に顔を向けたあとで再び視線を前に向けた。助手席にいるのは梨絵だ。私は梨絵に気を利かせて一人で後ろに乗り込んだ。前回と同じパーマの男性の後ろだ。
やっぱり支度からして梨絵の若さは隠せない。
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