第16話

―――「ヘイ!らっしゃい!」



 威勢のいい掛け声で圧倒されるようだった。さすがに一直線と凄い名の付くだけのことはある。そして無意識に剝き出しになった両腕をさすった。エアコンが効きすぎているのか真冬のように寒い。真夏に熱いラーメンを食べるのだから当たり前かと妙に納得したところで、案内されるままテーブル席に腰を下ろした。


 街の中にある小さなラーメン屋をイメージしていたけど、意外と広いっていうのが第一印象。働いている人もけっこういるみたい。日曜の夜ということもあってお店の中は賑わっている。


 椅子に座ってキョロキョロ眺めていた時、こちらを見ている男性に気付いた。リーゼント風の男性だ。私達に驚いたのか慌てて顔を引っ込める。その仕草がおかしくて梨絵と笑っちゃった。


 やがてその情報でも伝わったのか、運転してた男性も顔を見せた。それを梨絵も見ていたはずなのに気付かない振りをしてる。


 惚けてもダメ。顔が少し赤くなってるぞ。


 明るい店内、それもこの距離から見ると確かに優しそうだ。これなら梨絵の最初の男性でもいいかもしれない。キューピット。そんな言葉が脳裏に浮かんだものの、それはものの数秒で消え失せてしまう。


 深く考えることでもないと私はラーメン屋に似合うBGMを聴きながら頼んだラーメンを待った。


「来たんか!」と照れ笑いを浮かべながらラーメンを持ってきたのはリーゼント風の男性だった。塩ラーメンにバターが溶けだして美味しそうだ。


「ここだって教えてもらったから」


 箸を取りながらそう微笑むと、平静を装って厨房の中に消えた。どうみても慌てている。トッポそうな外見だけど意外と純情なのかもしれない。


 ラーメンは見た目そのままに美味しかった。


「ヘイ!らっしゃい!」


 ひときわ声が大きいのは店長だろうか。その声を復唱するように全員があとに続く。騒がしいと活気とが入り乱れてる感じだ。運転してた男性はリーゼント風の男性よりも年齢もポジションも上なのか、盛り付けなどを担当していて座ったテーブル席からでもよく見える。


 ラーメンをすすりながら梨絵も時々顔を向ける。こんな仕草がちょっと可愛い。運転してた男性がホールに出て来た。ラーメンも運ぶようだ。ファミレスのような店でもないからいろいろやるんだろうって見ていた。


 食べ終わって外に出ると私達はまた夏の蒸し暑さに包まれた。食べたのがラーメンだったから余計に暑く感じる。駐車場には次々と車が入ってきてけっこう繁盛しているようだ。


「梨絵ちゃん…ちょっと」


 私は歩いて来た道ではなく、店の裏側へと梨絵を誘った。部分的にブロック塀で仕切られた南側は社員たちの駐車場だと思ったからで、そのブロック塀は彼らが立ちションしてた場所だ。


「やっぱりあった」


 指を差した先にはあの日ドライブした白い車が止まっていた。名前は知らなかったがちょっとスポーティーな感じだ。私はそっとその車に触れた。



「もう一回来ようか!」


 梨絵は私の台詞にラーメンを食べにと思ったらしい。だから「閉店時間くらいに」と付け加えた。なんとなく聞いた覚えはある。それでもお店から出る時に扉に書かれた営業時間をチェックしておいた。


「十二時って書いてあった」


 それで梨絵も意味がわかったらしくすぐに「うん」と答えた。

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