第11話

「怒るだろうな~」


 信号をいくつか抜けた時に、運転している男性はやや低音の声を出した後に苦笑した。意味の分からない私は、何のことかと男性の方に顔を向ける。


「実は道を訊きたいってのは口実で、ちょっと可愛い子だなって声を掛けたんだよ」


 そう言われて悪い気はしなかったので特に怒りもしなかった。


「十九歳?いやもうちょっと大人っぽいから二十歳くらい?」


 少し老け顔と言えば老け顔なんだろうけど、大人に見られるのは悪い気はしない。可愛いと大人が足し算されて私の頬も自然と緩む。



「二十歳になったばかりなんです」


 だからついそう答えてしまった。


「やっぱり!じゃ~偶然の出会いにご飯でもどう?」


 青年がそのまま老けたって感じで、私から見ればずっと年上なのに爽やかな印象を抱いた。会話も上手で断る理由は何も見出せなかった。高級そうな車に乗って連れていかれたのは、大人しか来ないような高そうなお店だった。食事もいろいろあったし、お酒も飲める場所だ。


 男性は私にも何か飲むようにメニューを差し出した。二十歳と言った手前、こんな店でレモンスカッシュなんてことも言えないし、お酒なら隠れて何度か飲んだこともある。別れた父親譲りなのか、私はけっこういける口だ。


「じゃ、同じワインで」というと同時に、男性は店員に声を掛けボトルとグラスがテーブルに届けられた。男性がグラスにワインを注ぐ。仄かな照明の中に赤い色のワインが大人の時間を演出してくれているようだ。頼んだ料理もワインも美味しかった。


 男性がカードで支払いを済ませる頃には、ほろ酔いを通り越していただろうか。お店から出るなり男性に寄りかかってしまった。すかさずそれをエスコートする。やっぱり年上は頼りになる。


 男性は余程お酒が強いのかそのまま車を運転して、街からだいぶ離れた場所にあるホテルに車を乗り入れた。予感めいたものと初めてじゃないことで私はためらいもせずに男性と共に部屋に入った。自分の部屋とは世界が違うような華やかな作りで、なぜか心の中では感動すら覚えていた。


 ソファーに腰かけると男性は優しく肩を抱いて顔を寄せて来た。唇が触れると男性の舌が僅かに開いた口から中へと侵入してくる。私もそれに倣った。厭らしさはなくスマートだ。それから私はベッドに運ばれた。本当はお風呂に入りたかったけど、こんな状態で入ったらのぼせてしまいそうで、ガラスの向こうにある浴室を眺めるのがやっとだった。



 兄貴の友達よりもずっと年上の男性はセックスも大人だった。挿入もスムーズでいきなり腰を振ったりもせず、じっとそのままでいる。まるで何かを確かめるように。その待ち時間がより男性と私を一体化した気がした。


 だからなのか、男性が腰を引いたときに思いがけない声が漏れてしまった。漏れたというよりも叫んだに近いかもしれない。


 恥ずかしさも通り越して繰り返し叫んだ。あるのは脳に鳥肌が立つような感覚だけ。おかげで二度目という痛みも感じなかった。


 セックスが上手いというのはこういうことなんだろうって終わった後にしみじみと思った。

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