第7話

 それでも油断は禁物。うっかりしていると補導員とかに出くわすこともある。こんなことでお母さんに迷惑を掛けるのは申し訳ないと、より目立たぬよう、それと大人っぽく見せるために出掛ける時には黒っぽい服を着るようにしている。


 万一の時は高校卒業後の十八歳で通す。


「…先輩」と網戸の向こうから微かな声が聞こえた。


 十一時五分前だった。梨絵の声だと思って音を立てないように網戸をスライドさせる。私の気持ちを知ってか知らずか、梨絵はブルーを基調としたスカートと上は黄色いTシャツ。


 まるで子供。というか中学生はこんなものか。いざと言う時は妹分ではなく妹に変身させればいい。もちろんお父さんが違うってことも合わせて。


「家の方は大丈夫?」


「早めに寝るからって一芝居しておいたから」


 わかったと私は微笑んだものの、梨絵の部屋は二階にある。どうやって抜け出すのかいつも不思議に思う。



「じゃ、いこっか!」


 そう囁いてから用意してあったローヒールを梨絵に渡して電気を消すと、抜き足差し足で開けた窓から外へと抜ける。こんな時はつくづく平屋は有難いと思ったりもする。けっして新しい家ではなく間取りもおかしな感じだが、住めば都で然程不満らしい不満はない。


 聞くところによると元々は親戚の人が住んでいて、その人が亡くなって住む人が居なくなったので安く譲りうけたのだとか。私にすれば気が付いたらここに住んでいた感じで親戚の人の顔すらもわからない。


 いつもより時間をかけてガラス戸を閉めると、砂利の音を極力立てないように梨絵と歩き始める。ちょっと歩けば舗装路になる。そこまでいけば普通に歩ける。


 一応、タイトスカートの私はそれに似合うヒールを履くので舗装路は音に神経を注ぐ。それにいざと言う時に走れないけど、さすがにタイトスカートにスニーカーじゃ間抜け。梨絵は昼と同じスニーカーだった。服にも合ってる。


 狭い道を並んで歩いて十分くらいすると、片側二車線の大通りに出る。十一時でも意外と交通量はあって、いつ向こう側へ渡ろうかと物陰から左右に視線を送る。歩道橋でもあれば便利だけど、あるのは手押しの信号程度。


 もちろん、コソコソ活動するのだからボタンを押したりはしない。こんな通りだから稀にパトカーなども通ることがあるので、補導員と同等かそれ以上に気を付けなければならない。いずれにしろこの道を渡るのは厄介なのだ。


「チャンス!」


 そう言って梨絵と素早く駆け足で渡る。こじゃれた見た目でもそこはローヒール。こういう時に真価を発揮する。二車線の道を渡り終えると、またすぐに細い道へと入っていく。街灯もなく真っ暗だ。それでも感覚で行く先がわかる。


 これもいつものルートだからだ。

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