第6話

 特に数学の宿題は半端じゃない。担当の石塚の顔が頭に浮かぶ。四十過ぎの脂ぎった顔が気持ち悪いと皆で噂している。油男なんて妖怪のようなあだ名も付いている。


 その脂ぎった顔で私たちのスカートの中を時々チラ見しているのは有名な話。思い出すだけでゲロが出そう。


 反対に現代国語の桜井ティーチャーは二十代後半でちょっとハンサム。頼れるお兄さんって感じで女子受けも良い。それと歳に似合わず純情っぽいところも可愛い。だからなのか、桜井ティーチャーの時は足を少し大きく開いて今日の下着を見せつけるようにする。それに気付いて思わず目を逸らすところなんか最高だ。


 中学なら私のようなバカでも、自然に卒業できるのに高校になると単位を取らないと進級出来ないから困る。それを目論んで教師と関係を持ったまではいいけど、挙句の果てに妊娠して事の次第が発覚した生徒が昔居たなんて先輩から聞かされたこともあった。それだけはさすがの私も躊躇してしまう。やっぱり勉強だけはしておこう。



 たまに泊まることもある梨絵も、今日は他にやることがあるからと、夕方近くに家に帰った。私の家からは歩いて十五分くらいのところで、時々自転車で来るが、大抵は歩いてやってくる。夜道に若い子の一人歩きは危ないなんて言われるけど、私にすればもう慣れっこでそれがまたスリリングで楽しい。それほど悪いニュースも目にしない地方ってこともあるのかもしれない。


 お母さんと二人きりで夕食を済ませる。これもいつものこと。私の家は母子家庭でお父さんとは私がまだ小さい頃に離婚したのだとか。理由は詳しく聞いてないけど、飲んだくれで暴力を振るうような人だったと兄貴から聞かされた。


 兄貴の名前は川島徹かわしまとおる


 三つ年上の十九歳。今は中国地方の大学に通っていて遠いせいか、寮住まいが心地いいのか滅多には帰って来ない。お母さんは片親だからって言われるのが癪で兄貴を大学に行かせたみたい。そんな兄貴は妹思いのところもあるんだろう。


 でも「ゴムをちゃんと付ける奴としろ」なんて真顔で言うのもどうかと思う。これでも妹思いになるのか。


 裕福な家じゃないことなどお母さんを見ればわかる。パートを掛け持ちして朝から晩まで、時には残業は時給が良いと言って遅くなることもある。日曜も仕事でほとんど休みはない。働き過ぎなのがちょっと心配。


 川島晴美かわしまはるみ


 歳は四十六歳。このところ苦労のせいか白いものが増えたような気がする。まだまだ女ざかり。お洒落だってしたいだろうけど美容院にも行かず、いつも自分で髪を切っている。だから私も自分で切ることを覚えた。何度も切ってるのに前髪だけはうまく行かない。


 ご飯を食べて適当にテレビを見て笑った後で、私はお風呂に入って念入りに洗う。誰に会うのかわからないから身体の匂いだけには気を付けたい。それから髪を乾かし支度を整える。


 梨絵との約束は十一時だ。


 繁華街にでも出向けばそれなりに明かりはあるけど、私の住んでいる場所などは街灯もまばらで、それこそ細い道でも歩いていればまず人目にはつかない。

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