05 速攻、紫電の如く

 金光宗高の「進言」は当たり、三村元親は軍を三つに分けた。

 すなわち、明善寺城に入る先鋒隊と、明善寺城と宇喜多勢を挟み撃ちにする中軍、そして元親自身が率いる本隊に分けた。

 元親の狙いはこうである。

「先鋒隊が明善寺城に入り、中軍は直家めの背後に回り、同時に挟んで潰す。その間、予率いる本隊は宇喜多の本城、沼城を陥としてやる」

 言葉のとおりに行けば、それは壮大な戦略である。

 大兵力を活かした、二正面作戦とも言えた。

 ただ、よりによって相手はあの宇喜多直家であり、そもそもこの兵を分ける作戦は、直家自身に導かれたものだ。

 そしてその作戦は、案内役を仰せつかった金光宗高により、詳細が直家に筒抜けだったのである。


「明善寺城をとす」

 直家は特に力まずに、平生と変わらぬ口調で命じた。

 彼の脳裏にはすでに勝利までの工程が出来上がっていた。

 あとは、その工程に従って、作業を進めていくのみである。

 多少の変更は余儀なくされるかもしれないが。


 だがいずれにせよ、宇喜多の将兵たちは必死に戦った。

「少しでも気を抜いたら、負ける」

 たとえ明善寺城の兵力が百五十しかなかろうと、宇喜多勢にとっては、その攻略にかかる時間も黄金こがねの如き価値がある。

「かかれ、かかれ」

 直家の弟・忠家の猛攻が功を奏し、早々に明善寺城は陥落した。

「ここからだ」

 相変わらず直家は熱のこもらない態度であるが、それでも着実に事を進めていく。

 直家は早速、明善寺城から、操山みさおやまという山に進出、三村家の先鋒隊を待った。

「来た」

 三村家のしょう元祐もとすけの率いる兵、七千が操山の近くを通る。

「火縄の用意をせよ」

 直家の号令一下、火縄銃の部隊が一斉に弾を込め、発砲した。

 火箭の雨に、元祐の率いる将兵は薙ぎ倒された。

「宇喜多?」

 元祐は、三村元親の実の兄である。しかし、三村家が長年争いを繰り広げて来た庄家に、特にと養子に入った人物である。

 つまりそれだけ元親から先鋒を任されるだけの信頼と、そして才能を持った男であった。

 だが。

「これは……たまらん!」

 元祐からしたら、このまま明善寺城に入城し、それからの戦いという認識であった。

 それを、この不意打ちである。

 しかも、高所からという兵法の基本ともいえる痛撃に、元祐の軍はたじたじとなった。

「こらえよ」

 覚悟を決めた元祐は殿しんがりに徹し、元親から預かった将兵を逃がすため、五十の直属兵と共に踏みとどまった。

「挟め」

 直家は延原土のぶはらと佐守さかみに元祐の正面、そして忠家に側面からの銃撃を命じた。

「無念」

 元祐は瞑目して諦め、ついに撤退していった。

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