06 三村家中軍の末路

 三村家の中軍、五千は石川いしかわひさともという武将に率いられていた。

「何」

 当の久智は、明善寺城がすでに宇喜多のものであること、同時に先鋒隊の敗退したことを知り、愕然としていた。

「こ、このままでは」

 どうする、どうする、とうわごとのように久智はうめき、そして諸将を集め、軍議を開いた。

 ここで久智は、軍議を開いている暇が有ったら、宇喜多を攻めるか明善寺城を囲むか、あるいは本隊である三村元親の軍のいるところにまで戻るかすべきだっただろう。

 だが、久智は軍議を開いた。開いてしまった。

 当然ながらその分の時間を宇喜多直家に稼がせてしまい、しかもその軍議の内容は、直家に内通している者たちにより、筒抜けとなっていた。

 そうとも知らず、久智は、ああどうするか、どうするかと諸将に問うた。

「分かりませぬ」

「分からん、分からん」

 そんな応えが返され、なおさら久智は混乱した。


 その時。

 ぱん、ぱんぱんという、何かが弾けるような音。

「火縄?」

 久智が床几を蹴って立ち上がり、幔幕をくぐっていくと、そこには、三方向から火縄銃にて攻め立てられる、自軍の将兵たちの姿が見えた。

「かかれ!」

 直家は軍を三つに分け、自身は本隊を率いて、真正面から突進、突撃した。

 その左右の側面を、残りの二つが並走し、援護射撃する。

「何だと、何だと」

 久智が驚愕する間にも、宇喜多の本隊は噛みつき、両側面の分隊もまた噛みつき、久智の軍は三方向による挟み撃ちを食らうかたちとなった。

 宇喜多勢は勢いに乗って、久智を追い立てる。

 先鋒七千、中軍五千と、ここは徹底的に撃破をすべきという意見もあり、直家は軍を進めた。

 が、ここで久智にも意地があり、覚悟を決めて反転攻勢を決意する。

「調子に、乗るな」

 さしもの直家も、まともな戦の経験をまだそんなに積んでいないということもあり、退き際を誤ったといえよう。

「……これでは、いかんな。やはり」

 久智の粘りに不利を悟り、直家はあっさりと退却を指示した。まだ三村家には本隊が残っている。


「追いますか」

「よせ」

 久智は配下の者から、敗走する直家の軍への追い討ちを進言された。

 だが、五千もあった将兵は、もういない。

 ここは退けただけ善しとしなければならない。

「帰るぞ。立て直しだ」

 先鋒と中軍が負けた以上、もうこの戦は終わりだ。

 まともな将領らしく、久智はそう判断を下し、撤退に入った。


 だが。

 肝心の三村家の惣領たる三村元親は、まだ戦いを諦めていなかった。

 それどころか。

「父の仇! 父の仇が今、目の前に居る。仇! 仇を取らずにおらりょうか」

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