第19話 <修行編>最後の課題は、グループ制作だった

 最後の1ヶ月は、グループでの共同制作だった。


 15人のうち、3人が途中で退校していたので、最終月に残ったのは12人。6人ずつ、2グループになり、それぞれで話し合って一つの作品を共同で作ることになった。とうとう、最後の課題だ。


「グループ制作か……。オバチャンがみんなの足をひっぱれへんか心配やけど、まあ、なんとかなるやろ」


 講師から指示された課題は、「Blenderを使って、全員が何かモデリングをして作って、それをUnity上でまとめたものにする」というものだった。

 初日、それまでの5ヶ月間、毎日ずっと同じ教室にいても、お互いほとんど話をしたことがなかったので、まず簡単な自己紹介をしてから、どんなものを作りたいか話し合いをした。私を含めて女性が3人、男性が3人。あわせて6人。


 隣の席にいた謎のイケメンも同じグループだった。


 私のグループは、各自、どんなものが好きか、どんなものを作りたいかを話し合った。すると、6人とも、皆、『スターウォーズ』など、なんとなくスペースオペラみたいな雰囲気が好きという感じだった。そこで、宇宙船の船内を作って、そこに何人かのキャラがいるシーンを作ろうということになった。イメージとしては、『スターウォーズ』のミレニアム・ファルコンみたいな宇宙船だ。


 6人のうち、ゲームの「背景」志望が2人いた。彼らは、どちらも入学前からBlenderやUnityを使った経験がある「ベテラン組」だ。一方、女性3人は、まったくの「初心者」で、たまたま3人とも映像系の志望だった。


「あまり手を広げ過ぎず、小さくていいから、なるべくクオリティをあげた作品にしたい。せっかく作るのだから、自分の就活用のポートフォリオ用にもしたいから、雑に見えるようなものは作りたくない」

 という意見があり、あまりアレコレ作らずに宇宙船についても、ぜんぶを作らず、船内だけを作ることになった。


 というのも、宇宙船の外観は色々あるので、デザインを決めるのが難しくなるが、船内のデザインだけなら、SFっぽいイメージにするだけだから、それほどデザインに困らない。彼らは、モデラー志望なので、デザイナーに決めてもらったデザインをそのままCGとして作っていく作業の方がラクで、デザインを一から考えるのは苦手だという。また、その室内の方が、小物なども色々と細かく凝って作ることができるから、クオリティの高いものができる。背景志望なら、その方が就活用の「ポートフォリオ」向きだという。

 1人がコックピット(操縦席)、もう1人がリビング(居住空間)を作ることになった。隣の席にいる謎のイケメンは、コックピットの方の担当である。


 残りの4人は「キャラ」を作ることになり、話し合って「女性キャラ」「男性キャラ」「作業用ロボット」「ペット」の4体を作ることになった。


 シーンとしては、「女性キャラ」が『主役』というイメージで、これを担当するのは、残りの男性だった。彼は、このキャラの年齢や性格など、色々細かい設定を考えてきて、共用ドライブにアップしてきた。それによると、彼女は16歳で、宇宙船は貨物船で、亡くなった父親から引き継いだ船だという。課題は1シーンだけなので、それほど細かい直接必要はないのだが、キャラクターも4人で分担して作っているので、イメージは共有しておいた方がいい。


 「男性キャラ」の方は、映像志望の女性が作ることになった。彼女は、映像系の専門学校を卒業してからフリーターをやっていたという女性だった。

 もう一人の女性が作業用ロボットを作ることになり、私は、「ペット」を作ることにした。架空の存在だから、デザインや設定も自由に考えられる。私は、2日くらいで、とりあえず、ラフなデザインを何パターンか作って、そこから1つ、みんなに選んでもらうことにした。


 私は、まず5つのモデルを作ってみた。タコみたいな8本足のモデル、鳥みたいなモデル、二足歩行の猫みたいなモデル、蟻みたいな小型宇宙人のモデル、頭から葉っぱが生えている緑色の小人のモデル……


 この5体のモデルを他のメンバーに見せると「鳥」と「猫」がいいと意見が割れた。鳥というのは、ペンギンとフクロウをかけあわせたような二足歩行の鳥のデザイン。猫は、二足歩行の太った黒猫のデザインで、一応、古典SF『宇宙船ビーグル号の冒険』に出てくる『クァール』がモデルだ。


 どちらがいいか決まらなかったので、数日後、この2体にアニメーションをつけて背景担当にデータを渡して、宇宙船内に座らせた状態を見てもらった。動きをみると「宇宙鳥」の方がいいということに。


 共同制作では、こんなふうに色々話し合いをしながら作ることができるので、わりと楽しかった。


 女性キャラや男性キャラの設定もどんどん決まり、宇宙鳥にも同じようなデザインの『制服』を着せることになった。制服は。女性キャラ担当がモデリングをして、そのデータを送ってくれることになったので、それができるのを待つ間に、私は、架空のゲーム設定書や簡単なシナリオを書いてみた。ほとんどの設定は、私が考えたものではなく、女性キャラを担当していた人が考えたもので、モデリングだけならそこまで作る必要もないんだが、たまたま時間があまったので、整理してみた。


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RPGアドベンチャーゲーム『トワイライト・カーゴ』


危険な海賊、宇宙港、小惑星帯、宇宙生物に襲われたり、さまざまな困難をくぐりぬけて、依頼人から思いの詰まった荷物を6つの惑星に届ける。


それぞれの惑星には、違う環境がある。ヒントを頼りに受取人を探しだして、配達先にたどり着き、荷物を渡していく。それにまつわるそれぞれのヒューマンストーリー。


コロニー育ちの少女には、なぜか、あるはずのない「夕焼け」の記憶があった。幼い頃、誰かといっしょに見た、どこかの惑星の大気の記憶……。


登場人物

■少女 フィリス・タラリス(Firis Talaris)

15歳。母親は幼いころに、父親は最近亡くなった。祖父母に関しては不明。幼いながらもしっかり者で気が強く、それでいて頭も回る。

強気な態度は、この世界で自分を守るために気を張り続けているため……という部分もあるのだが、七割くらいは素。ほめられると調子に乗りがち。子ども扱いされると怒る……が、ちょっとは子供らしく甘えたい気持ちもある。掃除、整理整頓が好き。おっさんのだらしない姿や生活を注意しては受け流されるのが日常。行動力があり、15歳という年齢でありながら会社(自営業)を設立。宇宙を駆ける輸送屋となる。

名義上はおっさんが社長になっているが、実際に会社を動かしているのは彼女。経営関連や仕事の受注も彼女が中心になって動いている。若さからくる経験不足により、想定外の事態に弱い。


■(おっさん)

38歳。元軍人。以前、フィリスの父親が隊長を務める部隊に所属していた。有能な戦闘員だった経歴をもち、操縦もうまく戦闘能力も高いのだが、いざという時以外、あまり働きたがらない。日常生活はだらしがなく、いつもフィリスに怒られている。フィリスの宇宙船に乗り込んできた。


■(ロボット)

有能な整備用ロボット。元は軍所有で、軍からの払い下げで廃棄寸前のオンボロだったが、フィリスが購入して整備し直した。AIは、軍での記録がすべて抜かれているため、大変おとなしい性格。


■(宇宙鳥)

ペットの宇宙鳥。もともと地球産の鳥で、長期間の冬眠ができるため、星間航行の船内ペットとして流行して、品種改良をされた種族。冬眠中は体表が変化して、巨大なタマゴみたいな繭をつくる。羽は退化しており、まったく飛べない。現在は、数を減らして絶滅危惧種。知能は、3〜4歳児程度(簡単な命令などは理解するが話すことはできない)。

飼い主であるフィリスには懐いているが、おっさんはいつも敵視している。


■宇宙船

AIが搭載されており、ごく簡単な会話はできる(操縦に必要な情報などを提供してくれる)

父親の所有物だったもの。少女が相続した。この宇宙では一般的な貨物輸送船で、グレードはそれなり。

父親が「軍を辞めたら輸送業でもやって生計を立てようかな」と考えて購入したという経緯がある。購入した時点で新品ではなく中古品だったが、状態は良い。父親が購入したものだが、父親がこの船を動かすことは一度もなかった。


<機能、設備>

輸送用の装備は一通り揃っている。

また、船を運用するためのアシスタントAI(人格はない)も搭載されている。イメージとしてはアレクサとかそんな感じ。これはこの宇宙の、民間用の船としては一般的な装備である。


<武装>

自衛用のエネルギーシールドや機銃(非エネルギー、物理)を装備している。グレードは高め。

機銃に重量がかさみ、弾薬を消費する物理系の物を採用しているのは、エネルギーシールドとエネルギーを消耗する光学兵器を同時に使えるほど高性能な船じゃないから。

この宇宙の、民間の輸送船としてはそこそこいいものを使っている。グレードが高めとはいえ、あくまで民間用の、自衛を目的とした武装なので対して強くはない。宇宙海賊みたいなやつらが警戒してくれれば御の字……くらいの武装。




 


 

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