第17話 <修行編>質より量の作品づくり

 東京ビックサイトで、3日間、CG展の見学をしたあと、大阪に戻り、私は、またアニメーション制作に取り組んだ。

 あいかわらず、周囲の人たちは、モデリングに時間をかけて、クオリティの高い作品を作っている。パッと見ただけでもレベルが違う。正直、自分が作った作品が不細工なのは気になったが、他の人たちは、モデラー志望だから『モデリング』だけでいい。彼らは、就活用のポートフォリオに掲載できる作品を作らなければいけないし、その完成度をあげることに集中した方がいい。


 だが、私の場合、モデリングだけをやっていると、いつまでたってもアニメーションを作れない。モデリングに丁寧に時間をかけるとどうしてもアニメーションを作る時間がなくなる。とにかくスピードをあげて、どんどん作っていかないとしょうがない。形がくずれていたり、思ったような形になってなかったが、ぜんぶ目をつぶる。

  いい作品を作るためには、もちろん作品の「質」も「量」もどちらも必要なんだろうけど、素人の私の場合、どちらも追求するのは無理だ。だったら、とりあえず、質より量をめざすべき。とにかく作れるものをどんどん作っていかなければ。


 以前、知り合いのマンガ家から、こんな話を聞いたことがある。同じ期間で、一本しか完成できない人、三本完成させた人とどちらが伸びるか。もちろん一本だけに集中した方がクオリティが高くなる。三本だとどうしても質は落ちる。


 だけど、初心者の場合、作品数が多いなら、それだけ指導やコメントを受けられる本数も多くなる。編集者からきついコメントを受けても、何本かあれば「また作ればいいや」と落ち込みにくくなるし、作るのが早いので修正するのも早い。だから、それだけ上達するのが早い。

 素人の場合、制作スピードが遅ければ、完成までに挫折してしまう可能性がある。また本人がいくら質をあげようとして時間をかけても、ただ遅いだけで、あまり質は上がらないことが多い。だいたい、プロのマンガ家でも、ある程度、手が早くないと連載はもらえない。


 たとえ質が高い作品が作れたとしても、締め切りに間に合わないと、作品が出せない。未熟な作品だとしても、完成したら「作品」は「作品」だ。たとえ30点や20点の赤点だったとしても、締め切りに間に合わず、出せなければ、それは0点でしかない。


「ま、オバチャンは、どうやっても、クオリティでは勝負できへんもんな。どんなんでも、どんどん作っていくしかないわ。シロウトの完璧主義は、ただの命取りや。ヘタでもどんどん作る勇気が大事」


 そうして、イルカを作って泳がせたり、「夜中に本が勝手に動き出して、本の中から色んなキャラが飛び出してくる」という短いアニメを作ってみたり……。


 アニメを作り出したら、モデリング以外にもやらなきゃいけないことはたくさんあった。

 CGでは、物理演算を使って、雪を降らせたり、煙を作ったり、落ち葉を落としたり……爆発、火、液体、破壊された物体の破片、発光など、さまざまなエフェクトも使うことができた。

 そのほか、撮影や照明の方法など、覚えることはたくさんあった。

 せいぜい数十秒の作品だから、シナリオも用意しないまま、どんどん作っていった。もちろん、もっと永井アニメーションを作るにはシナリオやストーリーボードが必要だ……。


 だが、そうやって、個人の作品を作れるのは5ヶ月までだった。


 最後の1ヶ月間は、グループで共同制作をすることになっていた。


 

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