第15話 <修行編>CG展とクリエイターズEXPO

 東京で3日間、展示会を見て、かなり勉強になった。


 最先端の業界人たちの話は、やはり刺激になる。初心者の私には、まだまだ学なきゃいけないことがたくさんあった。

 毎日、訓練校に通っていても、素人では知らないことや気づけないことが多い。素人が最もわかりにくいのが、ビジネスだった。訓練校でも、技術のことは学べるのだが、業界のことはそれほどよくわからない。もちろん講師がいるので、彼からも話は聞けるのだが、CGといっても、いろんなビジネスがある。ビジネスとはお金の動きだ。


 また、企業だけでなく、同時に開催されている「クリエイターズEXPO」には、たくさんの個人ブースも出展されていた。イラストレーターやCGクリエイターなど、100人近く参加していたが、皆、かなり立派なチラシやポートフォリオを作成して配布していた。私は、あちこちのブースをまわって、直接、話を聞いたり、ポートフォリオをもらって、たくさん集めてみた。


 たいていのポートフォリオは、美しくレイアウトして印刷された冊子を配布していて、これだけでも勉強になった。クリエイターの作品集だが、展示会で配布されているポートフォリオは、訓練校で就職用に作ってるようなものとは、レイアウトや構成は完全に違っていた。


 考えてみたら、同じポートフォリオでも、学生などが作る就活用のそれと、プロであるフリーランスが作るそれとは、そもそも見せるターゲットも作る目的も違うのだ。だから、そこが違うのは当然かもしれない。


 展示会で配布されていたものは、作品をただ並べて見せるだけでなく、発注者の視線をかなり意識して作られていて、仕事を受注しやすいように編集されていた。イラストでも、絵本なのか、小説の挿絵なのか、カタログや商品パッケージ用なのか、それぞれ用途がはっきりしていた。

 「私のイラストを使えば、こんな面白いものができますよ」というわけだ。ちゃんとわかる構成。いわゆる作品カタログ。


 一方、訓練校で作っているような就活用のポートフォリオは、漠然としていて、あまりそこまで整理して構成されていなかった。


 「これって、同人出版と商業出版の違いにも似てるかもなあ」


 私は20年以上、社会人向けの小説講座の事務をやっていたので、習慣的にすぐ小説とつい較べてしまう。


 一応、プロ作家養成の講座だったので、新人賞を取って「プロ」になった人もけっこういるのだが、小説や絵などは誰でもはじめやすいので、とくに講座に通わなくても、もともと独学でそれなりに書けるようになっていた人もけっこう多い。結局、そういう人がすぐにプロになるかというと、これはまた別だった。いつも教室にはいろんなプロ作家や編集者に来てもらって話をしてもらったが、小説も「売れる作品」だと思われれない限り、出版もはてもらえない。べつに大ヒットでなくてもいいが、ある程度、売れないとさすがに2冊目も出してもらえない。


 なるほど。やはり業界人の話を聞く機会は大事だ。ネットだけではわからない話も聞けたし、シロウト感覚とのズレみたいこともよくわかる。


 そういや、たまに作家志望には「実は、自分では日頃あまり本も読まないし、滅多に買わない」という、ちょっと変わった人がいる。

 小説講座の場合は、一応、学費を出さないといけないし、講師もプロ作家ばかりなんで、さすがにその目の前で「本はほとんど買いません」というような、そんなヘンな人はいないが、今でもたまに問い合わせの電話がある。


 うちの講座は、今ネットにもほとんど宣伝などを出してないので、いったい何をみて電話してくるのかわからないんだが、今でもけっこうそんな問い合わせも多い。べつにマンガや小説は講座に通わなくても、誰でもそこそこ書けるようになるものなので、べつに無理に通ったり、プロもめざさなくてもいいと思うんだけど、そういう人に限って、何度も問い合わせの電話がかかってくる。


 これって「ラーメンは嫌いなので、食べませんが、ラーメン屋の開業をめざしてます」みたいな感じで、ちょっとヘンな感じがする。市場調査というほどではなくても、月に1〜2度くらい本屋さんに行ってないと、自分の感覚がだいぶズレているかもしれない。自分の感覚がだいぶズレていると、誰も買う人がいなくてもわからない。


 何がどんなふうに売れているか、そこがよくわかんないような気がする。まあ、ネットにも色んな情報もあるのだが、ネットだとたいてい自分が見たい情報しか見えてこないから、それだけで済まさずに、やっぱ、実際の書店に行ってみるのも大事。


 たまに本屋さんに行って、どこの出版社の、どのレーベルから本を出してみたいのかとか、どんな作家みたいになりたいのか、とか、そんなことをちょっと考えるだけでもけっこう勉強になる……。


 まあ、小説もマンガもCGも、一人でも作ることができるから、ただ作り続けるだけなら、そんなに難しくない。CGアニメだって、たぶんそうだろう。


 でも、とりあえず技術を磨くのも大事だけど、その先、どこをめざすかは、そろそろ考えておく必要がありそうだった。



 

 






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