第13話 <修行編>2作目は、裁判のアニメを作ってみた

 次に作ったのは、裁判のアニメだった。


 なぜ、そんなものを作ったかというと、たまたま私が見慣れていたものだったからだ。私は、「裁判傍聴記」の連載を何年か書いていたことがあった。裁判所には百回以上行ったことがあるし、裁判の手順も見慣れていた。


 そこで、その知識をいかして、子ども向けの教育アニメのようなものを作ることにしてみたのだった。Eテレでよく放映されているようなイメージの動画だ。


 裁判といえば、『逆転裁判』が有名だけど、あれはゲームだし、実際の裁判とはずいぶん違っている。私は、実際の「裁判員裁判」を何度もみていたから、本物と同じような内容なら、シナリオなどがなくても作れるだろう。


 そこで、裁判所の法廷をつくり、4頭身ほどのシンプルなキャラクターをいくつも作って、短いアニメーションを作ることにした。


 「裁判員裁判」には、たくさんのキャラクターが必要だ。

 裁判官3人、裁判員6人、補充裁判員2人、書記官1人、弁護士2人、検察官2人、被告人1人……。


 「裁判長は、やっぱ、中年くらいの男性がいいかな。残りの2人の裁判官は、どうしよう。30代くらいの女性と20代くらいの男性の2人とかでいいかなあ。

 あとは検察官2人か。わりと女性の検察官も多いから、女性をメインにして、あと一人は若い男性の検察官にしておこう。弁護士は、年配の男性と若い女性のペアで、やっぱ、書記官は女性がいいかな。じゃあ、被告人は中年の男性にしておこう。傍聴席にも何人か座らせないと……」


 たくさんのキャラクターを用意するのは大変だったが、それぞれ別の個性をつけたキャラクターだから、わりと楽しかった。顔や体格も違うし、年齢や性別も違う。そんなキャラクターを何人もつくっていった。


 CGアニメなので、CGで法廷のセットをつくり、そこにCGのキャラクターを置いて、それからライトを配置して、カメラの位置を決め、撮影をしていくわけである。


 裁判長に口の動きをつけたり、被告人を証言台まで歩かせたり、検察官に起訴状の朗読をさせたり。そんなに派手なアクションはないのだが、カメラを動かして、アップにしたり、カメラアングルを工夫してみると、それなりに面白い映像になった。どのみち、わずか数十秒のアニメーションだが、映像編集ソフト(Premier Pro)をつかって、エフェクトや字幕もつけてみた。


 それから映像を、ノートパソコンで知り合いの弁護士たちにも見てもらった。

 教室以外で、自分の作品を見てもらう機会は初めてだった。


「まだこれっぽちしか、出来てないんですけど」 

「へえ、裁判? これって、法廷も全部、作ったの?」

「ええ。これを見て、もし気づいたところがあったら、教えてください。間違っていたら、修正しますから」

「ふーん。人数も合ってるし、とくに変なところはないけど……。裁判員の年齢や性別も色々で、個性的なところはいいね。そういや、法廷の壁の色はもう少し白っぽい方がいいかな。それから弁護士が2人ともバッチをつけてない」

「弁護士バッチ? あ、そっか。そういや検察官もバッチをつけてないや」


 コツコツ作品を作ることも大事だが、人から意見を聞くことも大事だな。ヘタな作品でも、誰かに見てもらった方が早くうまくなる。


 そろそろ他のプロの人たちとも話をしてみたいなあ。


 そう思っていた頃、東京ビックサイトで3日間『CG展』が開かれることを知った。

 業界向けの展示会だから、いろんな企業の出展もあるし、セミナーもたくさんある。これならCG業界の最先端の話が聞けるに違いない。


 これは、ぜひ行かねば。


 訓練を3日休むことになるけど、夜行バスで行って、ハッカー息子のマンションに泊まらせてもらえば、そんなに費用はかからないだろう……。



 







 

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