第12話 <修行編>阿修羅を踊らせてみた

 美少女のあとは、阿修羅をつくった。

 そして、月末の作品発表でダンスを踊らせてみた。


 阿修羅が暗いお堂の中でゆっくりと歩き出し、突然、六本の腕を振りまわしてダンスを踊る。わずか数秒のアニメーションだが、これが私のはじめてのオリジナル作品だった。形も動きも何もかも未完成でむちゃくちゃだが、みんなに見せるとけっこうウケた。さすが国宝。


 時間をかけてもっと作りこんでいけば、もっといいものになるのだろうが、完成度はあとまわしだ。


 作品発表で、アニメーションを作っていたのは2〜3人しかいなかった。

 

 ゲーム業界では、「背景」と「キャラクター」とは分業をしていることが多いらしい。とくに背景モデラーの志望者の場合、アニメーションを学ぶ必要はないらしい。それに時間をかけるよりは、就活のポートフォリオ用に、少しでも質の高いCG作品づくりに集中した方がいい。


 またキャラクターモデリング志望でも、わざわざ時間をかけてアニメーションを学ぶより、就活のポートフォリオ用に完成度を高めた作品をつくった方がいい。


 というのも、CGでは、アニメーションは、別のデータになっている。だから、キャラにヒューマン用のボーン(骨)を入れておけば、動きはあとからでもつけられる。ゲームの場合、とくにアクションゲームのように「歩く」「走る」「転ぶ」「銃を撃つ」など、定番の簡単な動きなら、あらかじめ用意されたアニメーションをそのまま使えばいいので、わざわざ新しい動きをつける必要はない。


 ネットには、アニメーションだけを無料で配布しているサイトもある。そこから既存の動きを選んで、自分がつくったキャラにつけることもできる。訓練校の期間は、たった半年しかない。手間のかかるアニメーションを学んでいる時間がない。


 しかし、私は、ゲーム会社に就活をするわけでもないので、逆にみんなと同じようにモデリングだけに時間をかけていくわけにいかなかった。アニメーションを作るためには学ばなきゃいけないことが多過ぎる。


 実際、阿修羅を少し動かしてみて、ただの「歩行」がけっこう難しいことに気がついた。


 キャラクターを、ただ、ふつうに歩かせることだけでもけっこう大変だ。女性や男性、子供や老人など、そのキャラクターごとに歩き方が少しずつ違う。また、同じ人物でも、あわてているか、のんびりしているか、ウキウキしている場合などでは、また歩き方も違ってくる。


 アニメーターのバイブルと言われている『アニメーターズ・サバイバルキット』という有名な古典でも、どのように歩かせるかという「歩く」だけで、何十ページも使って説明されていた。この本は、ディズニーのアニメーターが書いた古いテキストなので、3Dではなく、すべてセルアニメの話なのだが、今でも十分に参考になる。アニメーターの役割はただ動きをつければいいだけでなく、そのキャラクターに演技をさせ、それが観客にどのように見えるかという演出も考えなければいけないのだった。


 それでレベルの高い作品をつくろうとしたら、時間がいくらあっても足りない。もし一人で全部それをしようとしたら、きっと挫折してしまう。


 「とりあえず、質より量やな」


 私はそう考えた。少しくらい形がくずれてようが、動きがおかしかろうが、とにかく作品を完成させていく方がいい。たとえ短い作品でもいいから、どんどん作っていこう。


 焦りは禁物。ローマは1日にしてならず。千里の道も一歩から。


 どんなに質の高いものを作ろうとしても所詮は素人。どのみちスタッフを何人もかかえている制作会社が作っているアニメのようには作れない。


 「料理かて、いくら不器用でも、市販のルーを使ったカレーライスやったら、なんとか作れるやろ。いきなりフランス料理のフルコースを作ろうとか思わへんかったら、たぶんなんとかなるんとちゃうか」


 




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