第10話 <修行編>ナイトメアビフォアクリスマス

 そんなとき、講師は、こう言った。

「まだ慣れていないでしょうが、課題だけでなく、自分の好きなものをつくっていいですよ。モチベーションを保つのも、続けるコツですから」


 なるほど。モチベーションを維持するのも大事なんや。たしかに自分の好きなもんを作った方が楽しいもんな。


 隣の席では、美女が毎日せっせとドラゴンのうろこを作っていた。それを見ながら、私は納得した。あれだけ情熱をかけるほど作りたいものがあれば、いい作品ができるだろう。

 そこで、課題にあった「人形」をもとに顔をつけたり、服を着せて、おかっぱにしてみた。自由にアレンジして作るのは楽しい。料理も、まずはレシピ通りに作るけど、それからアレンジするのが楽しいもんな。

 他の人たちもそろそろ用意された課題だけでなく、自分の好きなものをどんどん作るようになっていた。

後ろに座っている男性は、ポケモンのキャラクターを作っているようだ。


「ポケモンのキャラクターか。それは作りやすそうやな。もともとCGでできているから、どんな形かもよくわかるし……。ピカチュウは難しそうだけど、私もヤドンでも作ろうかな……」


 結局、私は『ナイトメアビフォアクリスマス』のジャックというキャラクターを作ることにした。ディズニーのキャラクターのひとつで、ドクロ顔の有名なキャラクターだ。人形だから、2Dアニメよりは立体感が、わかりやすい。


 『ナイトメアビフォアクリスマス』は、好きなアニメ映画のひとつだ。CGアニメや2Dのアニメではなく、人形を使った「ストップモーションアニメ」の作品で、私は、その他にも『ウォレスとグルミット』などの作品が好きだった。こちらはクレイアニメだが、これも「ストップモーションアニメ」のひとつだ。


 「ストップモーションアニメ」を作るには、たいへんな労力がかかる。だけど、もしかしたら、本当に作りたいのは、そんなアニメだったのかもしれない。

 でも、たぶんCGの方が、まだ手間がかからない。人形をつくる材料とか、人形を動かして撮影するためのカメラや照明の機材も必要ない。


 ふと昔のことを思い出した。


 そういえば、生まれてはじめて自分のアニメを作ったのは、中学生の頃だった。美術の時間に10秒ほどのアニメ作品をつくったことがあった。うすい紙を何十枚もクリップで止め、下の絵を透かして見ながら、次の絵を描いていく。パラパラマンガを描くようなものだ。

 たしか私が描いたのは、ユニコーンだった。足の動きを描くのが難しく、色をぜんぶ塗るヒマがなく、途中からぜんぶ白黒の線画になった。


 先生がまとめて全員の分を撮影してくれた。あとでできあがったものを見せてもらった時はちょっと感動した。だが、足もうまく動いておらず、色もついてなかったのがとてもくやしかった。


「いま考えたら、先生もものすごく手間だったんだろうな。もう40年も前のことだけど、、ひょっとしたら、私は、あのときのことをもう一度やりなおしてみたいと、ずっと思っていたのかもしれない」


 訓練校は、朝9時にはじまり、午前は3時間の授業があった。1〜3時限目。午後からは2時限の授業がある。つまり、1日5限だった。

 毎日5時間だけで、1時間おきに休憩もあるので、授業はとてもラクだった。

 昼も弁当を持参して、いつも休憩時間もほとんどずっと作業していた。それでも毎日あっという間に時間がたつ。ずっと夢中になって作業をしていると、とぶように時間が過ぎていってしまう。


 授業終了後も、1時間だけ教室を使って、自習をすることもできることになっていたが、みんな毎日さっさと帰宅してしまい、いつも残っているのは、たいてい私ともう一人だけだった。初心者にしては作業が早い方だったが、半分以上が経験ある人だった。


「早く作業に慣れて追いつかんと、どんどん遅れてしまうわ」


 だけど、つらいわけではなく、毎日、楽しくて仕方なかった。夢中でプラモデルを作っていると時間があっという間に過ぎる。そんな感じだった。


 『ナイトメアビフォアクリスマス』のジャックは、わりとうまく作れた。服のストライプ模様、口元にある縫い目などは、先生からいろいろ指導を受けながら作った。月末の作品発表にも、なんとか間に合った。他の人たちの作品に較べるとまだまだだったが、なんとかなりそうだった。


 アニメーションを作る前にまずちゃんとモデリングができないと。


 2ヶ月目は、美少女キャラクターのモデリングだった。それは、2冊目のテキストを見ながら、各自のペースで作業を進めることになっていた。








 

 

 









 


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