第2話 <修行編>強者に囲まれながら、修行スタート
青い髪のハッカーに相談した結果、やはり訓練校に入学することにした。
ハッカー息子との通話を切る寸前、ダメもとで「最後までちゃんと通って、訓練を修了できたら、おさがりのパソコンをもらえるかな?」とおねだりしてみた。だが、あいまいな笑顔だけを残して、さっさと通話を切ってしまった。
彼は、社会人になってからすっかり金まわりがよくなって、いつも最新型のパソコンを使って、たった1〜2年で買い換えている。最近はノートタイプのMacBookだが、今のは40万円以上するスペックだ。それ、ほしい。
ふん。オカンにくれる気がないのか……。「おさがり」でいいのに……。
学生の頃は、日本橋の裏通りの店でジャンク品を買い集めて、2万円くらいで組み立てた自作マシンを使っていたくせに……。
当時、高性能マシンを手に入れるには、それしか手がなかったのだ。
毎日、ほとんど部屋にこもっていたので、「たまにはバイトとか、すればいいのに」と言ったのだが、「友だちもいないし、他にお金は使わない。通学定期さえあれば、やっていける」と言っていた。今は、ネット会社に就職をして、東京の駅から徒歩3分前のけっこう高いマンションに一人で住んでいる。もっとも完全テレワークで、ほとんどひきこもり状態なのは変わらない。
さて、訓練校は、南森町のはずれにあった。
大阪市の中ではわりと便利な地域だ。ただ、教室は、ちょっと年季のはいったビルの中にある小さな部屋だった。エレベーターも1台だけの小さいビルで、ずいぶんせまかった。エレベーターの床も、なぜかボロボロのマットで、時々、足先がひっかかった。なぜか昇降中に、時々、カタカタ、と急に妙な音を立てることがあった。何度か耳にして、いったい何が鳴ってるんだろうと思ったが、気にしないことにした。いつも鳴っているわけではなかったし、古いビルだから小人が住んでいても不思議ではない。
ありがたかったのは「駐輪場」があったことだ。ボロボロの自転車が何台も放置されていたが、一応、自転車を止められる。電車だとかなり大回りになり、家から教室まで50分くらいかかってしまう。自転車をこいで行くと、それより短い40分ほどで着いた。通勤ではないから、交通費がもらえるわけでもないし、無職だからできるだけ節約しなければいけない。自転車で通ったら「タダ」だ。
どうせCGをやっていると、一日中、教室のデスクに座りっぱなしなのだから、自転車通学の往復は、ちょうどいい運動である。スポーツジムの代わりにもなるし、その分の会費も浮いたのだと考えたら、さらにお得だ。
受講者は15人だった。先生は、やさしそうな男性だ。
「この中に、これまでにCG制作を経験したことがある人はいますか?」と先生が聞くと、半数の人が手をあげた。ちょっとびっくり。初心者向けのコースなのに。
私は教室の一番前の席だったので、どんな人が手をあげたのか見ることはできない。だが、両隣の席に座っている人がどちらも手をあげていたのは見えた。右側に座っていたのは、のちに私が「スカルプトの女王」とひそかに呼ぶことになる、ほっそりした美女で、反対側は、謎めいたイケメンだった。
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