第11話 落ち着け先輩


「いやぁぁぁああああーー!!! むりむりぃー!! 来ないでぇ!」


「落ち着けって! あぶねぇから、とりあえず物投げんなよ!」


「やだやだやだ!!! あっち行ってよぉ!」


 半狂乱状態の先輩。まぁ、無理もないけどさ。

 自室でその、一人でいたしていたら、窓から突然男が入ってきたんだから。物を投げつけ、泣きわめき、パニックになるのものわかる。

 わかるが、だからと言って、大暴れされても困るんだよ。


「あぁー! いい加減落ち着けって! 俺だよ、善司だよ!」


 先輩はパジャマ姿だし、ちょっとズボンもずり下がって、乱れていたし、もし近所の人に通報でもされれば非常にまずい。

 先輩は説明はしてくれるだろうが、不法侵入は事実だからな。俺の立場は非常に危ういことになる。


「わかってるよぉ! 善司くんだから、来ないでほしいのっ!!」


 わかってんのかよっ!

 なのに、投げんのかよ!


 先輩がぶん投げた目覚まし時計が、壁に当たって派手な音を出す。あっぶね、もうちょっとでガラスに当たるとこだった。

 俺は、このままではらちが明かないと判断して、強行突破を試みる事にする。


 策はすぐに思いついたが、正直気おくれした。

 俺だって、思春期の男の子だからさ。恥ずかしいって感覚ぐらいある。


 そんな事でまごついていたら、先輩の投げたなんか鋭いもの(たぶんハサミ)が俺の頬をかすめた。あっぶねぇ……、マジで今すぐ止めないと命の危険もある。


「くそっ、あとで覚えとけよ先輩」


 覚悟を決めた俺は、大きく息を吸い込んで、一拍子ひとひょうし

「おい、璃々音りりねぇ!! こっち向け!!!」


 全力の大声で、先輩を威嚇いかくした。


 先輩は「んひぃ」なんて声を出して、見事怯んでいたから、一気に距離を詰めて、抱きすくめた。そのまま、強引にベッドに放り投げる。


「やだ、やだ」

 と、わたわた逃げ出そうとしている先輩の両手を頭の上で押さえつけて、そのまま強引に、唇を奪った。


「んんん――――――!!!!???」


 組敷くみしかれた先輩が、バタバタしているがこの際、知ったことか。

 勢いに任せて、思いっきり口の中を蹂躙じゅうりんした。丁度いい。この間の仕返しだ。

 そのまま、何度も何度も、執拗しつように、口腔内に舌を這わせ、思い切り舌を吸ってやる。

 

「んふっ、んん、ぷはぁ……んん――――!!」


 ついでに唇もはむはむ。なんつー柔らかい唇だよ。ちょっと癖になるなこれ。


 散々さんざんぱら、キスしてやったら、ついには先輩は動かなくなった。


「はぁはぁ……、これで分かったかよ」

「な、なにがよぉ……」


 嵐にもまれた先輩の顔は、桜色に火照り、声はうわずっていた。

 唾液で濡れた唇はパクパクと何かを言いたげに動いていたが、先輩はそれ以上何も言えないでいる。視線はとろんとしていて、忘我ぼうがさかいって感じだ。


「手間ぁ、かけさせんなよこの野郎……」


 先輩の衣服は乱れに乱れて、前もはだけかけている。これはヤバいな。もしこんな状況を誰かに見られたら、余罪が増える。

 不法侵入に婦女暴行。終わるな、俺。


「ううう、善司くんなによ……、私の恥ずかしいとこばっかり見てぇ……」

「見せる方が悪いんだろうが、なんであんたはそんなにポンコツなんだ」


 しばらく待っていると、ようやく復活したのか、前を隠しながら、先輩が文句を言ってきた。だがよぉ、言われる筋合いはないぜ。俺だって、ぎりぎりなんだから。


「学校こなかったのはなんでだ?」

 とりあえず、問い詰める。先輩は、うっと詰まったが、しぶしぶ答えた。


「き、嫌われたと思って……」

「なんでそう思ったんだよ」

「暴走して、やらかしたから……。善司くんの友達にケンカ吹っ掛けた。あと、キス……」

「んなもん、ひつじも気にしてねーよ」


 まぁ、それは嘘だが。ひつじはヤバいPTSDトラウマってたからな。


「――善司くんも、気にしてない?」

 おずおずと、上目遣いで先輩が聞いてくる。

 かわいいかよ……


 あと、なんだこいつ。いらいらする。

 すっげぇ、いじめたくなる。


 俺は無言で、先輩のその形のいい鼻を摘まみ上げた。

「んひぃ、いひゃいいひゃい! なにすんのぉ!?」

 

「気にしてない。むしろしびれた」

 本当にこの子は、マジでとんでもない。いつもいつも突飛な行動ばかりしやがる。

 でもそれが、なんでか目が離せない。


 告白に乗ったときは、正直よくわからなかったが、今では、はっきりと先輩のことが可愛いと思えた。


「う、う、うう……、またそんなウソ言って……」

「嘘じゃないって。じゃなきゃわざわざ様子、見に来ないだろ」


 先輩は、「うう……」なんて呻いてまだ涙目だ。

 くそ、なんか、その、可愛い……


 俺は耐えられなくなって、まだぐずってる先輩を抱きすくめた。

 華奢きゃしゃな肩は簡単に俺の腕の中に納まる。


「ひぃ!? な、なんでなんで……!」


「先輩、かわいい」


「ひえ?」


「かわいい、かわいい、かわいい、かわいい」


 俺、突然の語彙力ごいりょく消失。

 涙目の先輩の瞳は潤んでいて、覗き込むとキラキラがまぶしいほどだ。


「なんで、なんで? こんなにぐちゃぐちゃなのに? お化粧もしてないのに?

 おかしいよぉ」


「うるさい。泣かれると余計に興奮する」


 はぁはぁと、荒い息遣いが自分でもわかる。

 今すぐ、無茶苦茶にしてしまいたい感情に流されそうになる。

 

「う、うう……、善司くん、もしかして、発情してる?」


「う、うるせぇ、誰のせいだと思ってんだ……」


 先輩に指摘されて、ほほが熱を持ったのがわかった。

 自分だって、わかってんだよ。

 うまく腰を引いて誤魔化してはいるが、さっきから俺の下半身は臨戦態勢だ。


 どうする? このまま流れで行っちまうべきか? 引くべきか?

 てか、止まれんのか? この状態で???


「せんぱい、せんぱい、せんぱい……」


 鼻息も荒く、先輩のパジャマの合わせ目に手をかけた。

 服の隙間から見える二つのふくらみは、思っていた以上に大きくて、やたら柔らかい。先輩が身じろぎをすると、ふるふると揺れた。


 

「まって、まって、善司くん怖い、怖い!」


「ダメだ、待てない」


「やだやだやだ、あ、私あれだよ! 二日お風呂入ってないの! 汚いよ!」


「先輩の体で汚いとこなんて、無い」


「あるってぇえええええ!! んひぃ」


 叫ぶ先輩を無視して、白い首筋にかぶりつく。パジャマのすそから素肌の背中に手を回す。ほっそい腰から、小さな背中へ。

 これ、すべすべで、やわらかくて、あったかくて……。

 なんだこれ。クソ、反則すぎだろ……。


「ね、善司くん。まって? ステイ、ステイ! お願い待って!」


 先輩の体の感触に夢中になりかけていた俺の耳元で、彼女が大声を上げる。


「大丈夫だから、そんなに、お預けしないから! 私は善司くんのだから、だから今だけまってよ!!」


 はぁ、そんなの信用できるか? 俺は今あんたが欲しいんだ。

 グルグルと狂犬のごとくになった俺を引きはがした先輩が改めて、ぼふっと俺を抱え込んだ。先輩の大きな胸が押し付けられる。鼻先は、谷間におさめられて、しっとりとした汗と、先輩の甘い匂いが鼻孔をくすぐった。


「ね、おちつこ? ぎゅーってしてあげるから」


 先輩のウィスパーボイスが、耳元でささやく。


「ごめんね。私もう大丈夫だから、善司くんも落ち着いて、ね、ね?」


 頭を撫で、落ち着かせるように、よしよしされた。

 それはまるで、母親みたいな手つきだ。そのまま、頭を撫で続けられる。


 胸越しに先輩の鼓動が聞こえる。最初はめちゃくちゃ早かったそれは、徐々に落ちついていく。俺の鼓動もそれに同調していくのを感じた。


「ほら、善司くんも、ぎゅーってして」


「はぁ?」


「善司くん彼氏でしょ? 私は傷ついたの。恥ずかしいところも見られたし……。だからぎゅーってして」


「わ、わぁったよ……」


 先輩の、母親ムーブのせいで、気勢きせいがそがれた俺は改めて先輩の背中に手を回す。今度は服越しで、エロくない奴。やさしくて、柔らかくて、不覚にも幸せな気分になった。


「あのね、今日ね、多分危ない日なのよ」


「あん?」


「さっきの話。そのえっちの話……」


「ああ、そう。そういうことね」


「準備もしてないし、てか初めて、だし……」


 残念ながら俺も手持ちで持ってるか? と言われたらそんなもん常備してない。

 危うく、パパになりかけたってわけだ。


「でも、善司くんが良いなら、私はいいから……」


 先輩は、俺の耳元でささやく。

「善司くんが、求めてくれて嬉しかった。だからさ、来週に


 どっかって、どこよ? 

 なんて無粋な事は言いっこ無しだ。


 俺は、まだ歯をむき出しにした狂犬気分が残っていたが、しぶしぶ頷くことにした。



 ―――――――――――――――

 ハッスル!!└(゚∀゚└)(┘゚∀゚)┘ハッスル!!


 先輩も善司もえちちちちち……

 ここまでお読みいただきありがとうございます。

 『善司くん』はお楽しみいただけているでしょうか?

 お話はまだまだ続きます。


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