第2話

これはね、俺が高校生の時の話。今でもよく覚えてるよ。俺が一番輝いてた時期だったなぁ~。へへ。


俺はサッカー部でレギュラーだったのよ。まあ、お世辞にも強い訳じゃなかったけど……でもサッカー部でレギュラーとかモテるしかないっしょ?ところが残念。俺ってば全然モテなかったんだよね~。俺、そこそこイケメンだと思うんだけどな?どう?お兄ちゃん、俺イケメン?あいた!やめて!デコピンしないで!お兄ちゃん結構大胆!


冗談冗談……うーん、別に性格がよくなかったわけでもないと思うんだけどな~?友達は普通にいたし。あ、そんな目で見ないで、本当だから!嘘じゃないの!

そんなこんなで高校生になるまで恋愛なんてしたことなかったのよ。そんな積極的なタイプでもないし。彼女いない歴=年齢って奴?


でもね、高校2年のときに同じ図書委員の女の子を好きになったの。恋は落ちるものって誰かが言ってたけど、あれ本当だよ。もうね、キューンて。顔ももちろん可愛かったんだけど、サラサラで綺麗な黒髪も、頑張って話そうとする声も、よく気が利いて優しいところも、全部が魅力的。結婚するならこの人しかいない!って本気で思ったもん。で、俺張り切っちゃって。その子に会いたくて、わざと同じ日に仕事したり、その子の仕事を手伝ったり色々やったのよ。そしたら、段々話すようになって。俺のくだらない話に笑ってくれたあの子を思い出すだけで今も胸のこの辺が痛くなる。

ちょっと女々しすぎだし、こんなやつ気持ち悪いよな……。あれ、慰めてくれるの?あはは、ありがとう。


それで、休みの日に一緒に出掛けるくらいにまでなったんだよ。お互い部活やってたけど俺は無理してでも会いたかった。近くにしゃれた建物もあんまりないから電車でちょっと遠いところまで行ったこともあった。まあ、高校生でお金もそんなにないから一番よく行ったのは近所の土手だったけど。大体お互いが他愛もない話をして、顔見合わせて笑っちゃったりして。本当に何気ない日常だけど楽しかった。


いつもみたいに土手でのんびりしてたある日、その子が「私は高校を卒業したら、東京の大学に行くんだ」って言ってきた。好きな本の話とか、友達とのバカ話とかしてる中で突然。びっくりした。勝手にその子は地元の大学に行くと思い込んでたから。でも彼女は俺が思ってたよりずっと大人で、かっこよかったよ。子供なのは俺の方だったんだね。笑えるでしょ?……うん。

東京に行くってことは、引っ越して一人暮らしするってことだった。そうしたらもう会えないと思った。新しい住所教えてよ、なんて言える度胸、俺には無かったから。引かれてもやだし。ははは。……要するに、怖かったんだよね。


俺は勝手に焦って、一層彼女と話すようになった。たくさん話していくなかで、彼女に対する「好き」がどんどん増えていった。ふとしたとき柔らかくほほ笑むのも、照れ隠しに思い切り目を逸らすのも、俺に仕返しのつもりでやったいじわるが下手だったのも、全部。もし過去に戻れるなら、なんてアドバイスするかなぁ。「頑張れ」くらい言ってやれるかな。

何も出来なかった後悔に比べりゃ、振られたときの後悔の方がずっとマシなんだから。言いたいことは言った方がいいよ。大事なものって結構簡単に消えるし。


ついに俺は冬休みに入る前、告白することを決意したんだ。……クリスマスを意識してなかったといえば嘘になる。帰り道、いつもの土手で、ムードも何もないけど告白した。人生で一番勇気を出した。「あなたが好きです。付き合ってください」って言った。

そうしたら彼女は、すぐにうつむいて走り去ってしまった。ああ、振られたなって思った。学校でもよそよそしくされちゃったからね。冬休み前日になっても状況は変わらなかった。一人で校舎を後にする彼女が俺が最後に見た彼女だったよ。


というのも……俺はその後すぐ引っ越したんだ。

母親がね。飲酒運転の車に。犯人は捕まって、今どうしてるかは知らない。それなりの罪を償ったんだろう。色々落ち着かないうちに、父親が急に「明後日引っ越す。荷物をまとめろ」ってそれだけ言って黙々と家を片し始めた。悪い冗談かと思ったけど親父の目は本気だった。で、慌てて荷物まとめてそのまま。誰にも何も言わないでさ。まあ学校にはさすがに説明しただろうから冬休み明けに担任が伝えただろう。彼女もクラスは違ったけど噂とかで聞いたんじゃないかな。



あ、店員さん。え、ラストオーダー?



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