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「ねえ
安い居酒屋。酔い潰れた先輩たち。隣の美人な先輩。
テーブルの下で、
***
門倉と喧嘩別れをしたその翌日、俺は勢いに任せてダーツサークルに入部? 入会? 届を出した。別にどうしてもダーツがやりたかったとか、なにか思い入れがあるとかそういうのじゃない。五月半ばを過ぎてもまだ新入部員を募集していて、楽しそうで、なんか響きが格好良くて、それでいて忙しくもなさそうなサークルがそこだったというだけだ。
我ながら入部理由に中身がなさすぎる自覚はあるが、大学生なんて大抵はこんなものだろう。多分。それに、動機はどうあれ「やってみる」ことが大事だって言うし? 少なくとも、最初から何もかも諦めきっている奴よりはましだ。
門倉の言うとおり──と言うのも癪だが、俺は俺で存分に大学生活を謳歌してやろうじゃないか。あいつなんか、一生孤独にかじりついて生きていけばいいのだ。あの男が独りぼっちだろうと何だろうと、もう俺の知ったことじゃない。
収まらない苛立ちを発散させたくて、俺はダーツサークルの部室があるという総合教育研究棟へ急ぐ。
*
ダーツサークルの部室──として使用されている狭い空き教室──には、すでに二人の部員がいた。おそらく先輩だろう。明るい茶髪と、黒縁眼鏡の男性が二人、何やら談笑に花を咲かせているふうだった。
茶髪のほうの先輩が、座ったままこちらを振り返る。
「え、何? 君、どうかした?」
「えっと、お話し中すみません。ここってダーツサークルの部室で合ってますか?」
「合ってるけど……。あー、学務から苦情でも来た感じ? 部室でお菓子食べるな、的な?」
「じゃなくて。できれば入部? したいんですけど……」
「あ! え、うそっ、新入部員!? うちに!?」
「はい、まだ募集してるって聞いて」
俺の言葉に、先輩の二人は神妙な面持ちで見つめ合う。
「……」
「…………」
沈黙。ややあって、
「きゃーーっ‼」
つんざくような歓声が、狭い室内を切り裂いた。茶髪のほうの先輩がいきなり叫んだのだ。
「え!? うち、ダーツサークルだぞ!? 間違ってないよな!? いいの!? きゃーっ!」
一方もう一人の先輩は、黙ってその様子を見つめている。
「あ、なんか入部オッケーな感じですか?」
「オッケーどころか
なるほど。この歓迎されっぷりはそういうことか、と腑に落ちる。
「ときに新入部員くん、名前は?」
「神尾です」
「あー、その見た目で名前も『神の尾』とかカッコいい感じねー。もう俺、お前のこと大好きになっちゃう! 神尾くん最高! よっ、イケメン!」
「や、そんな……」
角谷先輩は俺の入部届を大事そうに抱きとめ、その場でくるくる回り始める。どうやら新入部員がよっぽど嬉しいらしい。
そんな角谷先輩の浮かれっぷりをしばらく見つめていると、ふいにもう一人の先輩も声を掛けてきた。
「悪いな、出会い頭にやかましくて。驚いただろう」
低いバリトンボイスが格好良い。それが、
「俺は三年の藤松。これでも副部長をやっている」
髪を明るく染めている角谷先輩とは対照的に、藤松先輩はいかにも落ち着いた風貌の持ち主だった。そのままリクリートスーツを着て面接に行けそうな七三分けと黒縁眼鏡が、いかにも優等生という感じだ。
「……このところ、角谷の口癖と言えば『一年生来ないかな』でな。あいつも部長として、色々悩んでいた。騒がしくて驚かせただろうが、どうか気を悪くしないでもらえると助かる」
「いえ、こんなに喜んでもらえるとは思ってなかったんで、なんか嬉しいです。これからよろしくお願いします!」
「俺も、神尾が入ってきてくれて嬉しい。こちらこそよろしく」
とまあこういった具合に、ダーツサークルでの滑り出しは実に上々だった。二人の先輩ともつつがなく打ち解けて、入部届もきっかり受理された。
この一週間ばかり、偏屈に足が生えたような誰かさんと一緒にいたせいで忘れていたが、もともと俺は初対面の人間とうまくやるのが得意なほうなのだ。誰かさんが例外というだけで!
とりわけ角谷先輩は俺のことを大層気に入ってくれたようで、解散ぎわにこんなことを言ってくれた。
「せっかく待望の一年生も入ってきたことだしさ、他の部員からもいくらか募って新歓でもやろうぜ。なあ、藤松も神尾くんもやりたいだろー?」
「ああ、ちょうど顔合わせにもなるだろうしな。俺は賛成だ」
藤松先輩が二つ返事で頷いたのを受けて、俺も「やりたいです!」と後輩らしく甘えておく。
「よーし、じゃあ決まりな!」
かくして今週の土曜日に、ダーツサークルの新入生歓迎会は開催の運びとなったのであった。
それではここで一つ、ありきたりな常套句でも据えておこう。
一体誰に想像できただろうか? 実はこのときすでに、俺はとある殺人事件に片足を突っ込みかけていたのだが、そんなことは当然知る
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