Ⅷ お別れ
2人に霊はしばらくの間固く抱きしめあっていたが意を決したのかあかりさんが抱擁を解いて立ち上がった。〝ごめんね琴音ちゃん。〟そう言ったあかりさんの頬を涙が伝った。そんなあかりさんに向けて琴音ちゃんはとびきりの笑顔で〝ううん、琴音はね、あかりちゃんの事が大好き!〟と返した。あかりさんをおもんばかる幼い琴音ちゃんの気持ちが僕の胸を打った。あかりさんは涙を拭うと満面の笑顔を作って〝うん、ありがとう。〟と精一杯の明るさを絞り出して応えた。そして静かに視線を僕に移すと頷いた。それが合図だと僕は受け取り琴音ちゃんの手にそっと手を添えて〝さあ、お母さんに会いに行こうか。〟と言った。琴音ちゃんは〝バイバイ〟とあかりさんに手を振った。するとあかりさんも笑顔で〝バイバイ〟と手を振り返した、しかしその笑顔は何かを必死に
琴音ちゃんの後について30分も歩いただろうか、気がつくと僕は川沿いの道を歩いていた。琴音ちゃんはある場所まで来ると河原に足を踏み入れ、迷う事なく川の
しばらくの間、琴音ちゃんとの別れを惜しんだ後、僕は携帯を取り出して現在位置を確かめた。報道で琴音ちゃんが行方不明になった川上の場所から、かなり下流に位置する場所だった。そして携帯を取り出して警察に電話をしようとしたが、ふと〝警察に連絡したら第一発見者として疑われるのではないか〟という考えが頭をもたげた。そこで僕は最後琴音ちゃんに合掌して〝ごめんね、もう少しだけ待ってて。〟と告げると近くの駅に向かっては速足で歩きだした。
駅前に着くと今はすっかり少なくなった公衆電話ボックスが幸運にも設置されていた。僕は110番にかけるのは硬貨がいらない事を確かめてダイヤルを回した。オペレーターの男性に〝遺体を偶然見つけた。場所は〇〇川の左岸。〇〇橋から300mぐらい上流の葦の茂みの中です。〟と一方的に伝えると受話器を置いて電話を切った。公衆電話を出ると帰宅のラッシュ時からなる人波に紛れて僕は駅に向かった。途中、二人の警察官をすれ違った。先程の公衆電話に向かっているのではないかと思われた。僕は歩みを更に速めた。
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