Ⅶ 寂しさの中で

 夕暮れ迫る公園に着くとそこに二人の女の子の霊が遊んでいた。幸いにも二人の霊以外、他の霊の姿も生きている人の姿も見当たらなかった。Sさんはおもむろに2人の霊に近づき〝こんにちわ〟と話しかけた。幼い女の子の霊がびっくりしてSさんを見ていた。そして年上の女の子が幼い女の子に近づき守るようにその肩に手をかけた。Sさんは自分に名前を名乗り、女の子たちの名前を尋ねた。女の子達は警戒しつつも名前を教えてくれた。虐待を受けた形跡がある女の子が〝あかり〟、幼い女の子が〝ことね〟と名乗った。『ことね』は行方不明になっている女の子の『琴音』という名前に一致するもので、僕はこの女の子の霊が行方不明になっている女の子であるという確信を改めて持った。Sさんは最初他愛無い話をしていたが僕に目配せして本題に入るよう促した。


 僕は琴音ちゃんに〝お母さんが探しているのでお母さんの元に帰らないかい?〟と優しく語りかけた。続けて〝その為には琴音ちゃんの体がどこにあるのか教えて欲しいんだけど…〟そこまで話したところであかりちゃんの霊に異変が起きた。そのシルエットが膨らむと同時に辺りが暗くなる。とばりという言葉があるが公園が何かに覆われた事を感じた。それは急に公園内を暴風が吹き荒れ始めたにもかかわらず、その外にある木々がそよぎもしていないことからも分かった。改めてあかりちゃんの霊をみると、地面から少し浮いたところで暴風に髪をなびかせてこちらを見ていた。金属を引っ掻くような〝1人にしないで〟という叫びが直接頭に響いてきた。僕はすぐそばにあったブランコの支柱に掴まって飛ばされないよう体を支えた。風はさらに強くなり、差し迫った命の危険を感じるまでになっていた。その時、風音に混じってお経らしき声が聞こえている事に気がついた。みるとSさんが片方の手で街灯にしがみつきながら、もう片方の手を額の前にかざし一心にお経を唱えていた。しばらくの間、あかりちゃんの霊とSさんは鬩ぎ合いが続いたが次第に風が弱くなり、終いには止んだ。気が付くとあかりちゃんの体は二十歳ぐらいの女性の姿に変わっていた。

 Sさんは肩で息をしながら〝ごめんね手荒なことして〟というと額の前にかざした手を静かに下ろした。僕は恐る恐るあかりさんに琴音ちゃんのお母さんが必死になって琴音ちゃんを探している事、そして琴音ちゃんの遺体が見つからない限り、お母さんは気持ちの整理をつけられず、ずっと探索が続くであろうことを説明した。あかりさんの反応が無い中、僕はあかりさんにお願いした。〝琴音ちゃんをお母さんの元に返したい、だから琴音ちゃんから遺体のありかを聞きたい〟と。

 あかりさんは僕の願いを聞き終えると目線を私から外して遠くを見ていた。色々と考えを巡らしているのかそれとも自分の気持ちの整理をつけているの、その表情から読み取ることは出来なかったがゆっくりと琴音ちゃんに向き直ると一言〝お母さんに会いたい?〟と聞いた。琴音ちゃんは少しの間あかりさん見ていた。あかりさんは慈愛に満ちたとても優しい笑顔を浮かべていた。その表情を見て琴音ちゃんは安心したのかポツリと〝お母さんに会いたい〟と答えた。するとあかりさんは琴音ちゃんに近づくとしゃがんで抱きしめた。そして抱きしめながら〝ごめんねお姉ちゃん寂しくて〟と繰り返した。

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