Ⅵ 相談
僕はSさんに会うために二年前まで住んでいた街の駅に向かっていた。車内に次に停車する駅の名前がアナウンスされると、電車は減速を始め、やがて停止した。久しぶりに降り立った駅は何も変わっていないように見受けられた。僕は何気なく例の女性の霊が最初に佇んでいたホームのベンチに目をやった。苦い記憶が蘇りそうになり、僕は慌てて視線を外し、改札口に向かった。
改札を出ると見覚えのあるSさんの車が停まっていた。車に近づき助手席の窓から中を覗き込むと運転席のシートを倒し、Sさんは仮眠しているようだった。僕が窓をノックするとSさんはシートから飛び起きた。Sさんは
駐車場のある喫茶店に車を停めるとSさんはさっさと車を降りて喫茶店に向かって歩き出した、僕は慌ててSさんの後ろを追って喫茶店の中に入った。ウェイトレスが窓側の席に案内しようとしたがそこにはスーツを着崩した男の霊が座り、上目遣いにこちらを見ていた。当然Sさんにも見えているのだろう、彼は店内を見回すと一番奥まった場所を指差して〝あそこいいですか?〟とウェイトレスに了解を求めた。
Sさんの真向かいに座ると早速僕は本題に入った。家に裏の公園で二人の少女の霊を見たこと。一人には生前に酷い虐待を受けていた形跡がある事。そしてもう一人は先日家の近くの川で行方不明になった幼い女の子の霊である可能性が高いと考えている事。そしてその幼い女の子の霊とコンタクトして遺体のある場所を教えてもらい、遺体をお母さんの元に返してあげたいと思っている事を一気に話した。丁度そのタイミングでコーヒーが運ばれ、僕は間を置いた。
その後Sさんは二人の霊が一緒にいる時も様子や、マスコミから伝え知る捜査状況などの質問を僕にした後、考えを整理したいのかコーヒーを口にしながら静かに目を閉じた。
5分ぐらい経っただろうかSさんは自分の考えを口にした。それは〝このままではいけないのか。母親には酷な事だが遺体は誰かが見つけるに任せてはどうか〟というものだった。僕は改めて何故ここまで自分が入れ込んでいるのか考えてみた。そして自分の中にあるもやもやしたものに向き合った時、その答えは見つかった。僕が本当に助けたいのは小さな女の子もさることながら、虐待を受けていた女の子の
Sさんは視線を中空に彷徨わせ考え込んでいるようだったが不意に僕の目に焦点を合わせると〝今からその公園に行こう〟と言ってくれた。そして僕たちは喫茶店を出るとSさんの車に乗り込み僕のアパートの裏の公園に向かった。
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