後日談4 また、二人で(2)

 ミリアちゃんの話を聞きながら、ミルクを入れた紅茶のカップに口を付けると、もうすでに空になっていた。

 それに気づいたアニーが、すかさず私の横にきて、新しい紅茶を注いでくれる。


「んー…… それで、ミリアはニールに不満があるのか?」

「ううん、そういうわけじゃないし、ニールくんが私の事をからかったりしているんじゃないって事もわかっているんだけど……」


 シアの質問に、珍しくミリアちゃんの歯切れが悪い。いつもは結構はっきりと物を言うタイプなのに。

 私たちの向かいに座るミリアちゃんは、何かを考えるように口籠りながら目を逸らせている。


「そうか、あいつが本気だから悩んでいるんだな」

 その言葉に、ミリアちゃんは黙って頷いた。


 ニールがミリアちゃんに告白したんだそうだ。それを聞いて正直とても驚いた。

 彼は王族の一員だ。王族に他種族の伴侶を迎えることはできない。しかも英雄として魔王を倒したニールの人気は、民衆の間ではかなり上がっている。次の王にと、望む声がちらほらと上がり始めているらしい。


「私と付き合うのと結婚を別に考えているんだったらいいんだけど」

「でも、ウォレスやジャスパーとは違って、ニールはそういうタイプじゃなさそうだよなぁ」


「私なんかを相手にしなければ……」

 王にもなれる。そう言いたいのだろう。


「んー、でもあいつが自分で決めたんだから、大丈夫じゃねえか。それがどんな選択だとしても」

「でももしも私のせいで……」

「それよりニールが決めたことだって認めないような連中から、お前が嫌な思いをさせられるかもしれない。俺はそっちの方が心配だ。でもそれもミリアはちゃんとわかっていて、心配はしていないんだろう?」


 頷いて、そのまま項垂れるミリアちゃんの頭を、シアが優しく撫でる。

「それに今あいつをフッたとしても、やっぱりミリアは後悔するんじゃねえか? それなら一緒に居て後悔しても同じだろう。それに一緒に居ても後悔しないかもしれないじゃないか」

 シアが言った『後悔』の言葉に、何か深い気持ちが籠っているような、そんな風に聞こえた。


「伝えられるときに素直な気持ちを言わなかったら、言えなくなる時もくるかもしれねえぞ。だから、ミリアの思っている事をニールにちゃんと伝えてみるんだ。な?」

 ミリアちゃんはこくこくと頷いて、小さく「うん」と言った。


 * * *


「シア、ああいう話が上手いのね」

「ふっふっふ。伊達にずっとフラれっぱなしで後悔し続けてねえよ」

「へー、シアでもフラれるの、意外ーー」


 そう言うと、私に不思議そうな顔を向けた。


「……ずっと、フラれっぱなしだったぞ。俺は」

「そうなの? 元魔王討伐隊なら、女性が放っておかないと思うんだけど」


「あ、いや。それより前の話だが……」

「うん……? じゃあ、アシュリーと出会う前、とかに??」


 それを聞いたシアさんの口が、むぅと不満そうにへの字に曲がった。

「……もしかして、わかってないのか?」

「?? 何が……?」


「お前の事が好きだったって、言っただろう?」


 急に好きだとか言われて、心臓が跳ねた。

「あ……うん……はい……」

「もちろんリリアンも好きだが、俺はずっとアッシュの事が好きだったんだぞ?」


「はへ??」

 ……思い起こせば……

 確かにシアは私に向かって、いつも調子の良い事ばかり口にしていた。

 でもあれは彼なりの処世術で、ふざけて言っているのだろうと、ずっとそう思っていた。


「え? で、でも…… あ、あれは、冗談なんだと…… ずっと」

 ぐるぐるする頭を落ち着かせようとしながら、ようやく言葉を絞り出す。


 そんな私に向かって、シアがはーーーーっと長くため息をいた。

「アッシュの事が好きなんだって、俺はあと何回言えばいいんだ? あ、いや…… それだけじゃ足んねえんだな」

 そう言うと、シアさんはガバッと私を横炊きに抱いて立ち上がった。


「アニー、この後もし来客があったら俺らは出かけている事にしてくれ」

『承知いたしました』

「はへ??」


「リリアン、今日の旅の続きはまた明日な?」

「えええっ!?」

 そう言うと、シアさんはそのまま軽々と階段を上がり、二階の寝室に私を連れて行った。

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