後日談1 花束/ミリア(2)

「うわあ、すごいね。君たち、器用なんだねぇ」

 ギルさんが、私たちの手元を見ながら嬉しそうに笑う。


 今日は神殿の部屋を使わせていただいて、リリちゃんとロッテさんと一緒にバザーで売るためのアクセサリーを作っている。引き受けたのはいいけれど、その数が半端ない。


 このところ先王ケヴィン様が中心となって、王都で開くイベントを色々と企画しているらしい。なんでも民衆を飽きさせないようにとか、そんな事を仰っているそうだ。

 このバザーも良い企画だと褒められたんだそうで、そんな話も含めてニールくんが嬉しそうに教えてくれた。


「リリアンはこういうの苦手なの?」

 リボンを手に苦戦しているリリちゃんに向かって、ギルさんが話しかける。

「あーー、うん。お菓子を作ったり料理したりはできるんだけど、縫い物はちょっと……」

「あとリリちゃんはセンスがないのよね」

「あー、ミリアちゃん、ひっどいーー」

 リリちゃんが私に向かって、ぷっくりと頬を膨らせてみせると、それを見て皆で笑った。


「こりゃ孤児院の皆にも手伝ってもらったらいいんじゃねえか」

 後から私たちの様子を見に来たシアンさんが、せっせと手伝いながらそう言った。

「それはいいですね。売り上げの一部を孤児院にも渡せますし」

 シアンさんはさっそくリボンをひっくり返しながら、どういう作業をしてもらうかの検証を始めている。


 シアンさんも手先は器用なのだ。彼が来てからは、リリちゃんはちゃっかり完成品の袋詰めや片づけに回って、作業をする役をシアンさんに任せていた。



 新しい神様――ギヴリス様――つまり、ギルさんの巫女になって、半年が経つ。この巫女としての生活は、思ったよりもずっと楽チンで平和だった。


 基本的には町の皆からの御祈りやお供えを受ける役をすればいいだけで、しかも一日中でなくても構わない。

 だから今まで通り『樫の木亭』で給仕の仕事をさせてもらっている。そして空いた時間だけ神殿を開けている。でも誰も来ない時間には今までみたいに本を読んだり、お裁縫をしたり、そんな風に自由に過ごしてよかった。


 あとギルさんご本人も手伝ってくれる。今日は僕がやるからいいよなんて言って、リリちゃんとお茶をしにお出掛けさせてくれたりもする。

 ちなみにギルさんが神殿に立つときにも、私とおなじような神殿衣を着ているものだから、まさか神様ご本人だとは、皆には全くばれていない。


「嬉しいなぁ。こんなに沢山の人が僕に会いに来てくれる」

 リリちゃんによると、ギルさんはお菓子が大好きなんだそうだ。いつもそんな風に言いながら、お供えのお菓子を見て嬉しそうに笑う。



 今日も『樫の木亭』のランチ営業が終わり、一旦神殿に仕事の為に戻った。

「ミリアちゃん、ニールが来ているよ」

 ギルさんは何故か私をミリアと呼ぶ。

 ギルさんは神様で、私なんかよりずっとずーっと偉い。だから私の事なんて呼び捨てでいいのに。そう言ったけれど、この方が友達みたいだからって言って譲らない。


「奥にお茶を用意してあるから。じゃあ、僕は帰るね」

「えっ?」

 まだ時間は早いし、一緒にお茶をしていけばいいのに。でもギルさんは、お供えのお菓子をいくつか持って、さっさと転移の魔法で帰ってしまった。


 最近ニールくんは王城での用事が忙しいらしい。日中はずっとお城に篭りきりだ。

 夜になれば、今日も疲れたーなんて言いながら『樫の木亭』に夕飯を食べにくる。だから、いつも顔は合わせているし、元気なのはわかっているけれど。


「いらっしゃい、ニールくん。今日はお休みだったの?」

 そう言いながら奥の部屋の扉を開ける。

 そこには何故か顔を真っ赤にしたニールくんが、花束を持って立っていた。

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