130 覚醒(3)

◆登場人物紹介

・魔王討伐隊…

 リリアン…前世(前・魔王討伐隊『英雄』のアシュリー)の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。『サポーター』

 シアン(顧問役)、ニール(英雄・リーダー)、マコト(勇者・異世界人)、デニス(英雄)、ジャスパー(サポーター)、アラン(サポーター)

・ギヴリス…リリアンを転生させた神。『黒の森の王』と呼ばれる獣人たちの神


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 私の言葉に、眼帯で覆われていないシアさんの左目が大きく見開いた。

「……え?? な、何を言ってるんだ? リリアン……」

「まだギヴリスに注ぐ為の魔力が足りないんです。だから、私の命を――」


 言い終える前に、駆け寄ってきたデニスさんに両の肩を掴まれていた。

「待て、リリアン! なんでお前がそんな事を……」


「私が適任なんです。この世界の人間には、そこまでの魔力はない」

 デニスさんが真剣な目で私をにらむ。そこから視線をずらすと、シアさんも怒ったような顔をしてこちらを見ていた。


「ダメだ。俺に……そんな事ができるわけがない…… またお前を……」

 ……私の前世アシュリーの事を気にしているのか…… でもあれはシアさんの所為せいじゃない。


「シアさん…… これは、貴方にしか出来ないんです。『勇者の剣』は使う者の命をも吸ってしまう」


「でも、それはマコトだって同じだったろう?」

 ニールが言うと、マコトさんがそれに応えた。


「同じだよ。でもこの世界と僕たちとは時間の流れ方が違う。僕たちには大した時間ではないんだよ」

「私たちの1年は、マコトさんたち『神の国』の者たちには、二日程にしかならないそうです」


 そう言ってから、再びシアさんに向かって話しかけた。

古龍エンシェントドラゴンの力を得ているシアさんにならできます。人間でありながら聖獣の力を得て、人よりも長い寿命と強い生命力を持つ貴方になら」


 だから、彼の姿は実際の年齢より若いのだ。彼は古龍の力を得た時から、年をとっていない。


「たかが私一人の命と、この世界と…… どちらをとるべきかは、分かっているのでしょう?」

「……それでも、もう俺はお前の居ない世界は嫌だ……」

 ……彼は相変わらず、優しいのだ…… でも……


「今更、マコトさんにこんなことをさせられません。この世界の事は私たちだけで始末をつけなくてはいけない。貴方に古龍の力が与えられたのは、この為なのでしょう」

「でも俺は……」

 私の言葉に、シアさんは目を見開いて、自身の右目の眼帯に手を触れた。



「小娘が、そんなわけがあるか」

 不意に、上から聞き覚えのあるしわがれ声がして、何者かが降ってきた。


「爺様!?」

 竜の角と竜の翼、竜の尾を持つご老人――さっき話に出たばかりの、古龍の爺様だ。

 急に現れたのは、転移魔法を使ったからだろう。爺様は驚く私を軽く睨みつけてから、言葉を続けた。


「シアンに儂の力を与えたのはそんな事の為じゃない、お前の為だ。ギヴリス様の御力で聖獣となったお前にはつがいが必要だろうに。そしてそれが、お前の本当の望みであろうに」

「え……?? つ、つが……って!?」

 不意に出てきた言葉に頭が追いつかない。今、なんて……?


「儂は唯一の聖獣だから代替わりしかできんが、お前らは沢山子を産めるじゃろう? 人間たちの為にも、この世界をもっと魔力で満たさにゃならん。その為の一つとして、聖獣は数を増やさにゃいかんじゃろうて」

 混乱する私をよそに、爺様はギヴリスに近寄ると、すんすんと何かを確認するように匂いを嗅いだ。


「これなら、主はひとまず大丈夫じゃろう。そんなに焦らなくとも、今すぐにこの世界が滅びるわけじゃない。その間にもまだやれる事はある。それに――」

 そう言って、今度は私に向けて指を差した。

をやるとしたら、次は儂の番じゃ。お前の番はまだ先じゃろう。新入り」


 * * *


 古龍の爺様が『気付け』と言って、自身の魔力を流すとようやくギヴリスは目を覚ました。

 聖獣の中で爺様だけは女神の魔力も持ち合わせているのだそうだ。


 爺様はギヴリスが体を起こすところを見届けると、さっさと転移魔法で帰っていってしまった。

 老人の突然の乱入と帰還に、皆は呆気あっけにとられたままだった。



「ありがとう、皆。リリアン、色々とごめんね」

 立ち上がったギヴリスが声をかけると、私以外の皆は慌てて床に膝をつく。

 その様子をみて、ギヴリスは困ったように眉尻を下げた。


「ああ、そんな事しなくていいよ。僕はそんなに偉くもないし。 ……えーっと、リリアン。彼らも君の友達なのかい?」

「うん、そうだよ」


「じゃあ、僕も友達に混ぜてもらえないかな?」

 ギヴリスは、少し恥ずかしそうに微笑んで、そう言った。


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(メモ)

 若く見える(#54)

 聖獣の力(『龍の眼』)(#69)

 古龍(#87)

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