130 覚醒(2)

◆登場人物紹介

・魔王討伐隊…

 リリアン…前世(前・魔王討伐隊『英雄』のアシュリー)の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。『サポーター』

 シアン(顧問役)、ニール(英雄・リーダー)、マコト(勇者・異世界人)、デニス(英雄)、ジャスパー(サポーター)、アラン(サポーター)

・シルディス…主に人間たちが信仰している、大地と豊穣の女神

・ギヴリス…リリアンを転生させた神。『黒の森の王』と呼ばれる獣人たちの神


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 もう一度、ギヴリスに『勇者の剣』を掲げると、二人の魔力がすぅと流れ込んでいく。


 それを皆で見守る中、シアさんがマコトさんに向けて声をかけた。

「なあ、さっき神話が捻じ曲げられていると言っていたよな。本当の事を聞かせてもらえないか」


 マコトさんは、確認をするように一度私の顔を見てから、シアさんの顔を見た。

「僕の中のシルディスの記憶と、リリアンの知っている『黒の森の王』の事、それで良ければ話をしよう」



 もともと、この世界には二柱の神しかいなかった。

 『黒の森の王』――この世界の神ギヴリスと女神シルディス。この二柱は恋人同士だった。


 何かの理由で、教会は女神を殺そうとしたが、人の手では神を殺す事はできなかった。


 しかし、死なないだけで、痛みや苦しみはある。

 死ぬほどの苦しみから彼女を救う為には、神の手で殺すしかなかった……


「人間の国に伝わる神話にある、神巫女に恋慕した男。あれはギヴリスの事です。そして、恋慕の相手は神巫女ではなく女神シルディスその者です」


 私の言葉で、皆の視線はギヴリスに注がれた。

 彼は空になった白い布を抱いたまま、まるで眠っているように目を閉じていた。しかし、その身のあちこちはまだ黒い膿に侵されている。


「そして、その彼から恋人の遺骸を奪い去ったのは、教会の者たちです」

「僕は女神を返すように言ったのに…… 彼らはそれをしなかった」


 神の遺骸を手放してしまったら、もう神秘魔法が使えなくなるから。

 神が死んでいる事を知られたら、民衆の信仰を失ってしまうから。

 そしてシルディスの神力を失うと、長く生きることができなくなるから。

 だから隠して、拒んでいた。


 その頃にはもう、この世界の神はその傷を癒す事が出来なくなっていた。

 神の命が尽きる時、世界も共に滅びる。じわりじわりと、世界は終わりを迎えていた。


 魔族たちは、人間を襲おうとしていたわけじゃなかった。

 女神を取り戻して、世界を救おうとしていただけだった……


 ニホンに逃れた女神は彼を救う為に、この国に戻ろうとしていた。

 しかし死ぬほどに傷つけられた女神の神力は、自分の力でこの世界に戻る為には不足していた。


 ある時、女神がこの世界に残していた召喚システムが作動し、『勇者』が召喚された。


「以前にも言ったが、僕のなかにはシルディスの魂の一部が溶け込んでいる。この女神の魂を持つものが、『勇者』なんだ」

 そう言って、自身の胸に手を当てた。


「おそらく僕の中の女神の魂で刺激されたんだろう。僕がこの世界に来た事で、彼の中の女神を求める心だけが分かれて目覚めた。そうして彼は再び、女神の遺骸を求めてこの国を目指す」


「それが…… 『魔王』?」

「そうだね。大司教がそう名付けた。あれは人間たちの敵だと。そう人間たちに刷りこんだ」


「若干、不本意ではあったけれど、この状況はにとっても好都合だった。『魔王』という理由がある限り、この世界は『勇者』を召喚する。その度に少しずつ、この世界に女神の魂が運ばれる。

 『勇者の召喚』とは『魔王』を倒す為のシステムではないんだ。だって、おかしいだろう? 『勇者』と呼ばれながらも、僕たちは戦いに参加する必要すらない。この剣だけ手にしていればいい。実際に倒すのは君たちこの世界の者たちだ。

 本当はニホンに逃げた女神の魂を再びこの世界に戻す為のシステムなんだよ。でも、もう『勇者の召喚』は僕で終わる。女神の魂はここにあるもので最後だ。これ以上、『勇者』を呼ぶことはできない」



 マコトさんが話をしている間に、『勇者の剣』の魔力は全てギヴリスに注がれた。

 それでも彼の体のうみは癒されず、彼のまぶたもずっと塞がれたままだった。


「ギヴリスが、目を開かない…… 傷が癒えない……」

 私の声で、今までマコトさんの方を向いていた皆がこちらを見た。


「きっと、まだ魔力が足りないんです。だから……」

 シア……


 彼に『勇者の剣』を差し出した。

「これで、私を切ってください」


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(メモ)

 神話(#32)

 (Ep.5)

 (#46)

 (Ep.13)

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