129 神の傷(1)
◆登場人物紹介
・魔王討伐隊…
リリアン…前世(前・魔王討伐隊『英雄』のアシュリー)の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。『サポーター』
シアン(顧問役)、ニール(英雄・リーダー)、マコト(勇者・異世界人)、デニス(英雄)、ジャスパー(サポーター)、アラン(サポーター)
マーニャ(マーガレット)…教会の魔法使いで、先代の神巫女。金髪に紫の瞳を持つ美女
・シルディス…主に人間たちが信仰している、大地と豊穣の女神。(女神の名が、そのまま人間の国と王都の名前にもなっている)
・ギヴリス…リリアンを転生させた神。『黒の森の王』と呼ばれる獣人たちの神
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自分の記憶の中にある、『彼』の匂いを辿る。
魔王の座っていた玉座の裏手から、地下へ潜る階段を下り、さらに奥へ向かう長い廊下を進む。
「なあ…… なんでシルディス様はそんな姿になってしまったんだ?」
後ろから私を追ってくるシアさんに答える。
「教会の皆さんが、彼女の遺骸から神力を奪ったからです」
「!?」
マーニャさんの方をちらりと見る。
「そうですよね。この間言っていた『赤いお酒』、あれは女神の神力を取り込む為の物ですよね」
彼女は私の言葉に少し眉を動かしただけで、何も答えなかった。
「な…… なんでそんな事を?」
「教会の者たちにだけ使える、特別な魔法を使う為でしょう。あれは『赤いお酒』を飲まなくては使えないんです。でもおそらく、それだけじゃない……」
さほど広くないこの廊下の壁にはなんの装飾もない。その事が今までどれだけの距離を歩いてきたのかの判断を鈍らせる。
まだ先だ。もっと先から、あの匂いがする。
ようやく辿り着いた、突き当たりの飾り気のない扉をあけた。
* * *
そこにギヴリスは居た。いや、正確にはまるで物のように置かれていた。
私を追ってきた皆も次々と部屋に入ってくる。
「うっ!」
「リリアンさん、これは一体……?」
たまらず、アランさんが顔を
見ない方がいいよ。
あの時、ギヴリスがそう言ったのはおそらくこの姿の事だろう。
教会の奥で見たシルディスと同じように、彼の体も大きな透き通る台座の上に据えられていた。
しかし、彼女とは違ってその体は損なわれてはいない。代わりにその肉体の
顔もいくらか
「先ほどの魔王と同じ顔だな……これがもう一人の神か」
「マコトさんは知っているんですね」
「ああ、僕の中にあるシルディスの記憶に彼の姿もあった。君に加護を与えたのはこの神か?」
マコトさんの問いに
「はい、そして『魔王』の本体です」
「『魔王』って…… 今さっき倒したやつだよな? じゃあ、こいつがいるかぎり、また魔王が復活するんじゃないのか?」
デニスさんが眉をひそめながら言う。
「いいや、もう魔王は復活しないよ。復活させるのは神だ」
マコトさんはそう言うと、私にさあと言うように目くばせをした。
「彼の正体は、我々獣人の神『黒の森の王』なんです」
そう宣言してから、ボロボロのギヴリスに少しになってしまったシルディスを差し出した。彼の目が薄く開く。
「約束どおり、魔王は倒したよ。それから、これを」
彼は私の顔を見ると、
その痛々しさに心が
手を添えて、ギヴリスに彼女の遺骸を抱かせると、彼は思いを巡らせるようにまた目を閉じた。
「ずっと…… 会いたかったんだよね」
「なあ」
ここに来てからもずっと黙っていたニールが、静かに口を開いた。
「世界が滅びるって……マルクスたちが言っていたよな。もうこれで大丈夫なのか?」
「ああ、そうだよ。これで、この世界の神はまた永らえる事ができる」
「待ってくれ。この世界の神って? シルディス様じゃあないのか?」
「いいや、違う」
そう言うとマコトさんは、ただ黙ってギヴリスの方を見た。
「どういう事だ? 俺たちの信仰が間違っていると言うのか?」
ジャスパーさんは教会の魔法使いだ。教会ではシルディス神を祀っている。不審に思うのも当然だろう。
彼に対して、同じ教会の魔法使いであるはずのマーニャさんは、不思議なほどにずっと黙している。
「間違っているわけじゃあない。でも人間にとって都合がいいように、神話は捻じ曲げられているんだよ」
マコトさんはそう言って、勇者の剣をギヴリスに向けて掲げた。剣からあふれ出た魔力が、ボロボロのギヴリスの体に吸い込まれるように消えていく。
それと同時に、ギヴリスの体にあった黒々しい膿が少しだけ消えていった。
「……それは、魔王を倒す為に集めた魔力だろう?」
シアさんが少しだけ首を傾げながら尋ねる。
「それは半分正しくて、半分間違っている。確かにこの剣の力で、あの魔王を
「救うって……?」
「勇者の剣には倒した魔獣の魂も集められている。その魔力を注いで少しずつ彼を延命しなければ」
そう言って、マコトさんは再びギヴリスの方に視線を戻した。
「この世界は滅びる」
「でも、これでもまだ足りませんね……」
私の呟きに、マコトさんはこちらも見ずに頷いた。
「勝手な事をしてくれては困るな」
予想をしていなかった方向から、重々しい老人の声がした。
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