100 聖夜祭/ニール(3)

◆登場人物紹介(既出のみ)

・ニール…主人公リリアンの友人で、冒険者見習いとして活動している自称貴族の少年。その正体は前英雄の息子で、現国王の甥にあたる。

・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。転生前は前・魔王討伐隊、『英雄』のアシュリー。転移魔法や姿を変える魔法を使う事が出来、人間の騎士の姿に扮する時には『リリス』と名乗っている。

・ミリア…主人公リリアンの友人で、『樫の木亭』の給仕(ウエイトレス)をしている狐獣人の少女

・アラン…騎士団に所属しながら、ニールの「冒険者の先生」をしているBランク冒険者


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 『聖夜祭』の日は、いつもと違う緊張で早く目が覚めた。


 あれから、ミリアさんとロッテはかなり頑張ってくれた。

 髪を結ぶリボンや、邪魔になりにくいデザインの髪留め。腕や手首に着けられる、布で出来た紐のブレスレット。ベルトなら男性でも使えるからと、これには仙狐せんこの毛を巻き込んだ糸で刺繍を入れてくれた。

 同じ様に刺繍を入れたスカーフも。これは首や手首に巻いたり、バッグなどに結び付けたりで使えるそうだ。

 仙狐の毛も鳳凰ほうおうの羽もかなり状態の良い物だったそうで、屋台で売るには贅沢ぜいたくな程の良い品が出来たそうだ。


 他にもリリス先生が手ごろな装飾品を幾つか持って来てくれた。以前行ったダンジョンで見つけてきた物だそうだ。

 冒険者ギルドのギルドマスター、マイルズさんも、ギルドの倉庫に転がっていたと言って、冒険者向けの魔道具をいくつか用立ててくれた。


 爺様に話をしたら、以前『英雄』だった頃の装備がまだあるからと、張り切って用意しようとしたので、それは断った。あの『英雄』が実際に使った装備です!!だなんて、あんな道端でぽんと売りに出したら大騒ぎになるよ……



 集めた商品をワゴンに並べ、その脇に少年の持ってきたポーションを並べる。

 ラインアップと店の場所のお陰で、多くの冒険者が屋台を覗いてくれる。

 夕方の閉店間際頃に、ポーションは全て売り切れた。


 幸運値を上げるアクセサリーも人気が高かった。聞いた所によると効果があって可愛いアクセサリーはなかなか他では見つからないそうだ。

 ミリアさんのデザインは特に好評で、女性の冒険者が連れ立って押し掛けた。これらもほとんどが売れてしまった。


 生まれて初めての売り子は、なかなかに新鮮で、なかなかに楽しくて、なかなかに大変だった。

 アランもロッテも手伝ってくれて、俺一人じゃなかったのに。それでも夕方には声も枯れかけてしまったし、座ってしまったら立ち上がれないんじゃないかと思う程に疲れていた。

 あの少年はいつも一人でずっと声を張り上げて、一人で売っている。少年だけじゃない、商売をしている人たちはみんなそうなのだろう。その大変さが、やっとわかったような気がした。



 『聖夜祭』の夜は大人の時間だ。屋台も俺たちのような雑貨を売る店は夕方までで、あとは酒やつまみを提供する屋台ばかりになる。

 俺たちの屋台も薄暗くなりはじめる頃には閉じて、暗くなる前に片付けた。


 今日の締めくくりに、『樫の木亭』で皆で『聖夜祭』を祝いながら夕飯を食べる予定になっている。

 せっかくだからと、ポーション売りの少年にも声をかけてみたが、父親が心配なので真っすぐ家に帰ると言う。

 残念だけど、家の事情なんだから仕方ないよな。せめて、彼の用意したポーションが全部売れてよかったなと、そう思った。


 売り上げと、手土産にと大きなロースト肉を挟んだサンドイッチを渡すと、彼がとても嬉しそうに微笑んだ。

「今日は本当にありがとう! またね」

「またな、マルクス」


 彼の名を呼んで、手を振った。


 * * *


 少年を見送って、ふと見上げた空から冷たい物が落ちて来て頬に当たった。

 『聖夜祭』の夜に降る雪花は、神から民への感謝と礼の花だと言われている。小さな白い花は空から溢れる様に、次から次へと落ちてきた。


 あと五日で今年が終わり、新しい年になる。次の誕生日がくれば、俺も大人と認められる歳になる。


 せめてそれまでに、皆を戻してはくれないだろうか。俺に謝る機会をくれないだろうか。

 空のはるか上の届かぬ神に、心の内で願った。


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(メモ)

 聖夜祭(閑話1)

 (#79)

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