100 聖夜祭/ニール(2)
◆登場人物紹介(既出のみ)
・ニール…主人公リリアンの友人で、冒険者見習いとして活動している自称貴族の少年。その正体は前英雄の息子で、現国王の甥にあたる。
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。転生前は前・魔王討伐隊、『英雄』のアシュリー。転移魔法や姿を変える魔法を使う事が出来、人間の騎士の姿に扮する時には『リリス』と名乗っている。
・ミリア…主人公リリアンの友人で、『樫の木亭』の給仕(ウエイトレス)をしている狐獣人の少女
・アラン…騎士団に所属しながら、ニールの「冒険者の先生」をしているBランク冒険者
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遥か昔に下った神託により、新しい年を迎える前に『聖夜祭』が開かれる。この日は神や身近な人に感謝をして過ごす事となっている。
大抵の人々はこの日を大切な人と過ごす。それは恋人であったり、家族であったり、友人であったりと様々だ。
王都に来る前の聖夜祭は、故郷で母とアランと3人で過ごした。今年は友達も沢山出来たし、そんな仲間たちと皆で楽しく過ごすんだと思ってた。
でも……
リリアンたちはこの頃になっても帰ってこなかった。
正直、寂しい気持ちはまだある。
また皆と一緒に仲良くクエストに行きたい。あの頃のようにワイワイと騒ぎながら、同じテーブルで杯を交わし合いたい。
きっと3人はまたこの王都に戻ってくる。
だからそれまでは、俺も
『聖夜祭』の日には王都中に色々な屋台が出る。
食べ物や飲み物は勿論、大切な人に贈る為の花やアクセサリー、お洒落な小物。そればかりでなく冒険者が使う装備品から、家庭の日用品まで。
俺たちの屋台を出す場所は、色々と考えて『樫の木亭』の前にした。
公園周りの広場の方が人もあつまるし、屋台の場所としても人気は高いが、慣れない俺たちにはせめて慣れた場所の方が良いと思った。
しかもその日は『樫の木亭』は終日営業するので、店に来る冒険者たちの目にもとまるかもしれない。
あとは屋台に何を並べるかだ。ひとまず、あの少年のポーションを並べる事は決まっている。でも他には何を売ろうか?
「どんなものがいいかなぁ?」
ミリアさんに訊くと、彼女は可愛く首を傾げた。
「うーーん…… ポーションも一緒に売りたいのよね。それなら冒険者が使えるようなものと一緒に並べた方が良いと思うんだけど……」
そう言って、隣に座るメイドのロッテと、ねーと言いながら顔を見合わせた。
あれから、ミリアさんは頻繁に俺の家に来るようになった。
勿論、俺に会いに…… ではない。親子ほども年の離れたロッテに会う為だ。
ロッテもミリアさんも料理や裁縫が好きで、その話から意気投合したらしい。こうして休みの時間や仕事のない日にはこの家に来て、二人でキッチンに立ったり、裁縫道具を広げていたりする。
ちょうど『聖夜祭』の支度に忙しくなる時期なのも、二人には逆に都合が良かったらしく、今も『聖夜祭』のツリーに飾る小物を二人で協力して作っているそうだ。
「私たちの作品も一緒に売ってもらえると嬉しいんだけど。でも作れるのはちょっとした髪飾りや小物入れとかで、冒険者が使うというより町中で女の子が使うようなものばかりなのよね。ポーションと並べてもなんだか合わない気がするし……」
そうだよなぁ……
しかも俺が町のお洒落な女の子相手に髪飾りやアクセサリーを売るとか…… そこからしてイメージがわかないし、どうにも自信がない。
「男女選ばず使えるようなデザインのリボンやアクセサリーも用意はできるけど、でも冒険者の人って、そういう余計なものはあまり身に着けないでしょう?」
「そうだね、せめて何かアミュレットみたいに特殊な効果があれば、かなぁ……」
腕を組んで頭を捻ってみても、なかなか良いアイデアは浮かばない。
アランの助言もあり、他の人にも売れるものや何か案はないか、片っ端から聞いてみる事にした。
* * *
「
「ええ、
人に会うたびに話を持ち掛けていたところ、意外なところから反応があった。俺に訓練をつけてくれている、騎士団のリリス先生だ。
「それをリリス先生が持っているの?」
「はい。とある方より、換金して来てほしいと言われてまして…… この訓練の後に、北地区の工房にでも持ち込んでみようかと思っていたんです。この仙狐の毛を、そのお嬢さん方の作るリボンやアクセサリーに縫い込んでもらったらいかがでしょうか?」
「それなら冒険者が使える物が作れますね。でもいいんですか? おいそれと手に入る物でもないですよね。値段も張るのではないのでしょうか?」
横に座るアランが心配そうに言う。確かに、あまり値段が高くなってしまうと、いくら良い物だと言っても買いにくい物になってしまう。
「秋に換毛したものを集めたので、それなりに量があるのです。しかも二人分。一部を安くお分けしても、問題ありません。あと他に
えっと、二人がかりで集めたもの、という事なのかな? たくさんあるから大丈夫という意味だろう。
リリス先生が口にした金額を聞いて、安すぎませんか?とアランが声を上げた。
俺には相場はわからないけれど、確かに俺たちが無理なく支払う事ができる金額だ。そんな特別な素材の価格とは思えない。
しかも仙狐の毛は一度に使う量は少なくて済むので、今回分けてもらえる量でも、かなりの数のアクセサリーが作れるそうだ。
「そういうご事情でしたら、こちらも儲けるつもりはありませんし。預かって来た素材はお金にするのが目的ではなく、そのお金で『聖夜祭』の買い物をして帰るまでが依頼です。それにはこれでも十分ですから」
リリス先生がそう言って優しく微笑んだ。
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(メモ)
聖夜祭(閑話1)
九尾(#19、Ep.10)
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