98 何処にいるの?(1)

◆登場人物紹介(既出のみ)

・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。転生前は前・魔王討伐隊、『英雄』のアシュリー

・デニス…Sランクの実力を持つAランクの先輩冒険者。リリアンに好意を抱いている。

・シアン…前・魔王討伐隊の一人。アシュリーとは討伐隊になる前からの付き合いがあり、ずっと彼女に想いを寄せていた。

・シャーメ…現在リリアンたちが世話になっている、仙狐(3本の尾を持つ白毛の狐)の兄妹の妹


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 リリアンがアシュリーさんの生まれ変わりだとか、とんでもない事を教えてもらったあの晩、その先の話をする間も無くぐにアシュリーさんはシャーメに風呂に連れて行かれてしまった。

 いったい何があってそんな事になっているのかとか、ずっと俺の事もわかって知らんぷりをしていたのかとか…… いいや、アシュリーさんは俺の大恩人なのだから、礼も言えずに彼女は帰らぬ人となってしまったから、何よりもありがとうと礼を言わなければいけないのに。


 あれからも二人で話をする機会がとれなかったし、それならと思ってこのタイミングを選んだだけだ。リリアンの部屋を夜分に訪ねたのに、別に下心とかそんなものは何もなかった、はずだ。


 なのに、リリアンの部屋に行ったらこんな時間なのにシアンさんが居て、しかも嬉しそうにリリアンの髪を乾かしていた。


 そんなものを見て心中しんちゅう穏やかでいられるわけがない。

「おっさん。何してんだよ!?」

 そう問い詰めたが、これはアシュリーさんの頃からの自分の役目なんだと言われて、言葉が続かなかった。


 そうだ、俺はシアンさんがずっとアシュリーさんだけを想っていた事を知っている。


 嬉しいの、だろう。俺もそうだから気持ちは判る。シアンさんの嬉しい気持ちは俺以上だろう。

 でも俺だって、幼い頃からアシュリーさんに憧れていた。いや憧れていただけじゃあない。

 リリアンの事を気にするようになったのは、大人の姿に化けた彼女にアシュリーさんの面影を見たのが切っ掛けだった。それが似ているだけでなく、本人だったんだ。余計に惚れ込むし、嬉しいに決まっている。


 口籠くちごもった俺に向かって、シアンさんは過去のアシュリーさんの話をはじめた。髪をいじられるに任せているリリアンは、口も挟まずにただ黙っていた。

 それがだんだんと自慢話になっていくのに、少し面白くない気分が沸いた。


 俺はお前の知らない彼女を知っているんだと、そう主張したいのだろう。そんなのわかってる。

 でも、ずっとアシュリーさんにフラれっぱなしだと、自分でもそう言ってたじゃないか。付き合いの長さが、彼女との親密さに比例するわけじゃあないだろう?


 話が酒場での話になった時に、酒に弱いくせに――と口をついて出たのは、ただの弾みだ。俺だってそんなに強くもないクセに。

 でもシアンさんもその言葉に調子よく乗ってくるし、勢いは止まらなかった。


 * * *


 男と同衾どうきんするシュミはねえ。

 もちろん、そっちのシュミもねえ。


 目が覚めて、隣で眠っているデニスに気が付いた。

 まず互いに服を着ている事を確認する。うん、着ている。まあ当然か。


 えーっと、昨日の晩はデニスと話が盛り上がって…… そうだ、飲み比べになったんだ。

 互いに酒にゃ強くねえのを知ってるから、そうは言っても形くらいで適当に注ぎ合って終わると思ったが、意外にデニスの飲み方が本気だった。

 何やら酒の力を借りて、俺に言いたい事でもあるようにも思ったんだが…… いいや、その辺りから記憶がないな。


 今俺がほうけているこの部屋は、明らかにリリアンの部屋だ。当然このベッドも彼女の物だ。

 まああのまんま、二人で寝ちまったんだろうなぁ……


 俺ら二人がベッドを占領したもんだから、部屋の主のリリアンは困っただろうに。

 いつぞやリリアンが泣いてしまって一緒のベッドで眠った事を思い出した。


 ――あの時は、リリアンがアッシュの生まれ変わりだとは知らなかった。彼女はずっと年下の可愛い後輩冒険者で、どうやらデニスが気にしているらしいなと、そのくらいにしか思っていなかった。

 下心なんて当然なかったし。……いやまあ、ちょっとだけ、頭を撫でてやるとピクピク反応する耳が可愛いなとか、いやリリアン本人もなかなかに可愛いなとか、やっぱり女の子はいい匂いがするなあとか、そんな事は思ったが。


 彼女がアッシュだとわかっていたら、あんな風に偉そうに頭を撫でるなんて事はできやしなかった。



 さて、そのリリアンの姿がない。

 外の明るさからすると、もう朝の鍛錬に出ていてもおかしくないだろう。

 昨晩はどこでどうやって休んでいたのかわからんが、ベッドを占領してしまった事を謝らないとな……


 そう思って、まだ眠っているデニスを放ったままで庭に出た。

 が、庭にもリリアンは居なかった。

 シャーメの部屋ででもまだ休んでいるのだろうか、それとももっと大外おおそとを走ってでもいるのだろうか。

 どっちもある事だと思ったし、まあそのうち来るだろうくらいの気持ちで、大して気にもしていなかった。


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(メモ)

 髪を乾かす(Ep.7)

 酒に弱い(#7、Ep.2、#53)

 大人の姿のリリアン(#34、#36)

 一緒のベッド(#60、#61)

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