95 飛竜(2)
◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。転生前は前・魔王討伐隊、『英雄』のアシュリー。転移魔法や姿を変える魔法を使う事が出来、人間の騎士の姿に扮する時には『リリス』と名乗っている。
・シアン…前・魔王討伐隊の一人。アシュリーとは討伐隊になる前から一緒に旅をしていた。討伐隊の時に失った右目の眼に『龍の眼』を与えられている。
・ケヴィン…人間の国シルディスの先代の王で、ウォレスの祖父。2代前の『英雄』でもある。
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先王との会見を終え、ケヴィン様の部屋を後にした。
騎士の姿をしている私ならともかく、本当はこの町に居ないはずのシアンさんの姿を人目に晒すわけにはいかない。物陰からこっそりと
仙狐の住処の前に着くと、すでに辺りは薄暗くなり始めていた。
「なあ、リリアン」
入口の扉へ足をむけた私へ、シアさんが声を掛けた。
「さっきの話でさ…… 俺、前から少し気になっていたんだが…… 俺らが知る高位魔獣は3種だ。
「はい」
「この仙狐の住処は獣人の国の西の端で、古龍の爺様の家は東にある。鳳凰のおっさんのところは南の方だ」
「はい」
「北には、何もいねえんだな」
シアさんの言葉で、頭の中で何かがちくりと響いた。
「……おそらくですが、今はそこに居ないだけではないかと……」
「お前は何か知ってるのか?」
「いいえ、知りません。でも……それに繋がる何かがあるような、そんな気がするんです。でも、これ以上は触れてはいけない事、のようです……」
情報制御―― 物心が付いた時から、その存在は薄々とだが感じていた。
自分に何かがある事がはっきりとわかったのは、故郷に帰ってギヴリスに会った時だ。聞きたい事も色々とあったはずなのに、その事には触れてはいけないのだと何故かそう思い、口に出すことができなかった。
そしてルイの死を知っても…… でもそれが『最善』なんだとわかってしまった自分が居た。
「自分の中で、触れてはいけない情報とそうでない事を、区別しているようなのです」
「そういやアッシュの時の事も、全部を覚えている訳じゃないって、そう言っていたな。それもそうなのか?」
「はい、
「自分のってのは、どういう意味だ?」
「主の制御とは別に…… 自分で思い出したくないほどのつらい記憶があるのだろうと、そう言われました」
私の話を聞くと、シアさんは少しだけ眉間に皺をよせながら、言い難そうに口を開いた。
「……俺の事は、こうしてちゃんと覚えてくれているんだろう?」
* * *
旅の途中で突然足を止めたリリアンが、王都に帰ると言い出した時には驚いた。
訊くと、アニーとは魔力の遠隔供給で微細ながら繋がっており、そこから逆に異常を察知したのだと。
一人王都に跳んだリリアンが戻ってくると、王城でちょっとした騒ぎがあったので一緒に行こうと言う。デニスを仙狐の住処に帰し、二人で王都へ跳んだ。
アニーにその事を伝えたのはアランだそうだ。というか、アニーにそんな機能がある事にも驚いた。リリアンがこの家を買った時に、色々と機能を付け加えていて、その一つなんだそうだ。
ミリアの一大事、おそらく犯人はあの王子だろうという事で、王城のケヴィン様を訪ねた。
リリアンが仔犬に化けて様子を見に行くというのを止めて…… でもまさか自分が飛竜の姿になれるとは思ってもいなかった。
今日はいつもの様にただの旅の移動の日だったはずが、えらい騒ぎになった。本当に色々とあったな。まあ、大事がなくて良かったが……
仙狐の住処にある広めの野外風呂に漬かりながら、ふぅーーと胸から大きく息を吐いた。
──アシュリーだった頃のことを、全て覚えている訳じゃないんだ。幼い頃の記憶は私の中には全くない。
アッシュ──いや、リリアンが言った事を思い出す。
──お前と二人で旅をしていた時の事は覚えている、でも、お前と出会った時の事を覚えていないんだ──
すまない、と、彼女は俺に頭を下げた。
何故かはわからない、と。そして、きっかけがあるなら思い出せるからと、お前さえ良ければ教えてほしい、と……
話せる、わけが、ない……
申し訳なさそうに言うリリアンにむけて、何ともないような顔をして首を横に振ってみせた。
ああ、そうだよな……
思い出したくもない程の、つらい思いをさせたのは、俺だ。俺の所為だ。
ごめん……アッシュ、ごめんな……
どんなに謝っても、俺には償いきれない……
見上げた夜の空に、星々の輝きが
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(メモ)
情報制御(#29)
記憶(#74、#83)
シアンとの出会い(Ep.12)
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