84 イケメン/シアン(2)
◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。転生前は前・魔王討伐隊、『英雄』のアシュリー(アッシュ)
・シアン…前・魔王討伐隊の一人で、英雄アシュリーのサポーターをしていた。前の旅でリリアンの前世を知った。
・デニス…西の冒険者ギルドに所属するAランクの先輩冒険者。リリアンに好意を抱いている。
・カイル…リリアンの兄で、灰狼族の若き族長。銀の髪と尾を持つ。やや(?)シスコン気味。
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リリアンにぐいぐいと腕を引かれ、店の裏手に連れていかれる。横を歩くカイルは、あきらかに不快そうな顔を俺に向けた。
「僕のリリアンに馴れ馴れしくするなよ」
いや、どう見ても腕を掴まれているのは俺の方だろう?
店の裏に回ると、水場の脇に二人の男女が座り込んでいた。あいつらも獣人か。
彼らはこちらに気づくと、立ち上がって手を振る。
「あ!! シアンおにいちゃん!!」
聞き覚えのある、無邪気な声がした。
白い毛並みを持つ二人の狐獣人……いや、あいつらは獣人じゃねえ。あれは高位魔獣が獣人に化けているだけなんだ。
……タングスとシャーメ。なんでこいつらがここに居るんだ?
* * *
「だって、私たちだけじゃ人間の国に行っちゃいけないって、ドリーが言うんだもん。でもおねーちゃんが居ればいいって言うから。じゃあ、おねーちゃんのお兄ちゃんならいいよねって」
やばい、シャーメの言ってる事が半分しかわかんねえ。
さっきリリアンがシェリーさんに頼んでいたのは個室の使用許可らしい。
10人程度で使う広さのこの部屋に居るのは…… 俺以外は見た感じは獣人だらけだ。確かにこのメンバーではホールじゃあ目立ちすぎるだろう。
リリアンは黒毛の狼獣人だ。
そこにリリアンの兄貴のカイル。彼は銀髪の狼獣人で、黒毛のリリアンとは雰囲気が全く違う。同じ歳だと言っていたが、兄貴の方がいくらか大人びている。いや、リリアンが幼く見えるだけかもしれない。
そして、シャーメとタングス。二人は
俺だけが獣の耳も尾も持っていない。いや、この町ではこっちの方が多いはずなんだがな。
「リリアンに会いに行こうと思って、国境を目指していたんだ」
そう口をひらいたのは、カイル――リリアンの兄貴だ。彼はまだ若いのに銀狼の一族の族長なのだそうだ。
一族をほっぽって人間の国にまで来ていいのかよ?って思ったけれど、それはいいらしい。
「可愛い妹と族長の仕事と、どっちが大事かなんて決まってるだろう?」
って。いや、普通は族長の仕事じゃねえのか?
つまりカイルは人間の国を目指して国境近くに辿り着いたところで、シャーメとタングスに捕まったらしい。
見知らぬ同士ではなく面識はあったそうだが。どうにも聞いている話の雰囲気だと、二人が有無を言わさずに彼に付いてきたようだ。
でもって、タングスとシャーメは保護者無しでは国境を越えたらダメだと、ドリーってヤツに言われているらしい。俺の知らない名前だが、リリアンはそいつを知っている様だ。
「……せめて、連絡の一つくらい
「おねーちゃんをビックリさせようと思って!」
「……本当、驚いたわよ……」
リリアンが、肩を落としてふぅーーっと大きなため息をついた。
ホールとこの部屋を隔てる扉を軽く叩く音がした。リリアンが扉を開けると、デニスが申し訳なさげな顔を覗かせる。
「あーー、シアンさん。食いかけのメシ、こっちに持って来ようか?」
そうは言ったが、この部屋を覗く為の口実だろう。俺に話しながらも、視線は他のヤツらに向いている。
「ああ、気が利かなくてごめんなさい。皆もお腹すいてるよね。ご飯にしようか」
リリアンがそう言うと、仙狐兄妹――とくにシャーメは、パッと顔を
「デニスさんも、よかったら皆で一緒に」
それを聞いて、デニスもホッとした顔になった。
リリアンが今日の日替わり定食を用意してくれている間に、互いの紹介をした。もちろん、仙狐たちには狐獣人という事にするよう言い含めたが。
俺の名前を聞いて、リリアンの兄貴が一瞬不機嫌そうな顔をしたのがちょっと気になった。
そして、たかがメシを食うだけなのに、席の取り合いで揉める事になるとは思わなかった。
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(メモ)
・タングス…仙狐(3本の尾を持つ白毛の狐)の兄妹の兄。前・魔王討伐隊たちとは顔見知り
・シャーメ…仙狐の兄妹の妹。二人とも20歳程度の人狐の姿になれる。
シャーメ、タングス(#29、Ep.10)
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