83 隠された事(2)

◆登場人物紹介(既出のみ)

・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。転生前は前・魔王討伐隊、『英雄』のアシュリー(アッシュ)。神秘魔法で大人の姿などになれる。

・ケヴィン…人間の国シルディスの先代の王で、2代前の『英雄』

・シアン…前・魔王討伐隊の一人。アシュリーに想いを寄せていた。

・アラン…ニールの教育係の騎士。黒髪の女性騎士に好意を抱いている様子。


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「……教会の図書館には…… おそらく勇者たちの所持品と思われる物も、隠されていました」


 そう告げると、ケヴィン様とシアは揃えた様に怪訝けげんな顔をした。

 何故にと、口に出さぬとも思っているのがわかる。


「私たちの代の勇者――ルイの大事な魔道具も、この世界に残されていたのを見つけています」


「持って帰らなかった、という事かね?」

「いいえ、『持って帰れなかった』という事だと、そう思っております」


 静かに、息を吐いて続けた。


「勇者の剣は……勇者の命を吸いつくすのだそうです」

「……!」

「……どういう事だ!!」

 絶句したケヴィン様と対象に、シアは語気を荒げた。


「わからない…… 私はそうあるじから聞いている」

「あいつが…… 死んだっていうのか? 信じられねえ。信じたくねえ……」


「ああ…… 信じなくていい」

 そう応えると、ハッと気づいた様な表情でこちらを見る。

「お前のその気持ちも当然だ。信じる根拠も、証拠も何もない。だから、信じなくていい。でも、彼らが故郷に戻ったという根拠も証拠も、やはり無いのだよ」

 そう告げると、シアの視線が戸惑うようにらされた。


「其方は……それを信じているのかね?」

 獣の耳に、ケヴィン様の声が届く。

「信じるというか、疑う理由が無いのです。私は主によって、再びここに生を受けました。その主の言葉が真実でないのなら、私が前世の記憶を持ってここにいる事も、真実では無いのでしょう」


 彼の言葉が真実でなかったとしたら、なぜ私は転生させられたのだろうか。

 私は彼との約束を果たす為に、ここにこうして生きているのだ。




「魔王の復活は約20年毎と、伝承にはあります。しかし、それはあくまでも『おおよそ』の話で、実際にはその間は前後しています。ケヴィン様が討伐隊だったのは、40年前です。そして、私たちの代は15年前……」

「25年、開いているな」

 ケヴィン様が答えた。


「はい。同じように過去の記録を調べると、20年より多くの時が開く事が何度かありました」

「……そこに何がしかの条件でも?」

「勇者がこの国の誰かと、恋仲になっています」


 ケヴィン様の表情が陰った。それもそうだろう。ご自身に心当たりがある事なのだから。

「……それが、魔王の復活時期とどう繋がるのかね?」

「わかりません。ただ、クリスは討伐隊のリーダーという任務と別に、もう一つの任務を受けていたそうです」

「それは……?」


「勇者ルイと恋仲になれ、と……」

 横で静かに話を聞いていたシアが、僅かに動揺したのを感じた。しかし、それには気付かぬふりで話を進める。


「でもクリスはそれで悩んでおりました。自分にはアレクが……婚約者がいるのだから、と」

「確かにあの時、教会はクリストファーを英雄にする事には渋っていたが……」

 そういう理由だったのか、と先王は言葉を零した。


「どういう繋がりかはわかりませんが、やはり何か関係あるのでしょう。そして教会が用意したシナリオが、そこにあったようです。魔法使いサマンサがそのシナリオを持っていました」

 そう告げて、シアの方を向く。

「あの、破られた日記のページにはその事が書いてあったのだよ」

 そして、あの日記に書かれていた「姉様」とは、おそらく元神巫女のマーガレット様の事だろう。


「全て…… 全て教会に仕組まれていたって事なのか?」

「おそらく。どうにも色々と、不自然なのだよ」


「リリアン、其方は何をしようとしているのかね?」

「今度こそ、魔王の元に赴きたいのです」

「何の為に?」

「もう勇者が命を落とすことが無いようにします。それが我が主との約束です。その為に次の討伐隊に入り込むつもりです」


 先王の目を真っすぐに見て、そう答えた。


 * * *


 二度目の会合を終えた後は、皆で夕食を頂く事になった。

 この部屋で一番の権力者であるケヴィン様は、どうやら俺たちと食卓を囲む事が嬉しいようだ。

 リリアン――いや、今は『リリス』だったな――彼女は緊張とは縁がないのだろうか? だいぶリラックスをしているようで、今もケヴィン様と談笑しながら食事をしている。


 その二人に挟まれたアランに目をやると、緊張と複雑さが入り混じった顔をしてスープを口に運んでいた。


 ……流石に少し同情するな。

 俺の時もそうだった。ケヴィン様に呼ばれたと思って来たら、リリアンが居たんだ。


 アランの場合はもっともっと気分は複雑だろう。何せ、惚れた女をデートに誘って、彼女に付いて来たら、ケヴィン様が居たんだもんな。

 美人局つつもたせにでもひっかかった気分だろうに。


「……シアン様は、何故ここに居るんですか?」

 アランは恨みがましくそう言って、上目遣いで俺をにらみつけた。


 * * *


 その日、国境近くの山が、一つ消えた。


 翌朝、教会より魔王復活の兆しがあったと告げられた。

 英雄選出の為の闘技大会は、半年後に行われる運びとなった。


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(メモ)

 教会の図書館(#79、#66)

 勇者の剣(Ep.5、Ep.13)

 伝承(#32)

 任務(Ep.4)

 デート(#79、#82)

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