70 旅の続き(1)
◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。転生前は前・魔王討伐隊、『英雄』のアシュリー(アッシュ)。教会の魔法使いしか使えないはずの、転移魔法を使う事ができる。
・シアン…前・魔王討伐隊の一人で、デニスの兄貴分。アシュリーの生前、彼女に想いを寄せていた。
・デニス…西の冒険者ギルドに所属するAランクの先輩冒険者。リリアンに好意を抱いている。
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まず体を包む温もりを感じ、次に感じたのはシアさんの匂いだった。
「……ん」
完全に覚醒する前に、今自分の居る場所が彼の腕の中だと気が付いた。
あれ……? もしかして私、またやってしまった?!
「リリアン、気付いたか?」
何故かホッとしたような、シアさんの声が聞こえた。やっぱり……!
「……あ! ごめんなさい! 私、汚れてて――」
「待ったーー! リリアン、そのまま動くな! 今、動くと見えちまう!」
「……へ?」
「いいか、落ち着いて聞け。俺は変な事は何もしてないからな。体が冷えきっていたから温めていただけだ。俺が見つけた時には、もうお前は服を着てなかったんだ」
……あ!
やけに温もりを直接感じるのは、互いの素肌が触れているからだ。
下着すらつけていない恥ずかしすぎる姿の自分は、シャツを着ていないシアさんの膝の上に抱きかかえられている。彼が上からマントを羽織ってくれているから見えずに済んでいるけれど、マントがなかったら……
……って、じゃあその前は……?
「……もしかして…… 見ました?」
尋ねた言葉に、シアさんは気まずそうに顔をそらせた。
「……わりぃ、見るつもりじゃなかったが……(ばっちり見た)」
「……!!!!」
はっきりとはシアさんが言わなかった言葉が、何故かわかった気がした。一気に頬が熱くなる。
「お、お前を見つけた時だけだ! それからは見ていないからな!」
な? と、もう一度念を押す様に言ったシアさんの顔を直視する事が出来ずに、恥ずかしさで顔を伏せた。
「あーー…… リリアン、体は大丈夫か? あの後、いったい何があった?」
あの後……って。ああそうだ、シアさんと別れた後の記憶が途中で途切れている。
「あの…… 汚れてしまったので体を洗おうと思って……」
「……それだけか?」
「はい。って、なんでですか?」
それだけってどういう意味? 何をそんなに心配されているのだろう?
「すまん…… お前が服を着ていなかったから、余計な心配をした」
一瞬考えて、すぐに『余計な心配』に思い当たった。
「ああっ!! いや、これは違くって…… 普段なら獣化を解く時に、一緒に『着装の魔法石』を使ってるんですが、多分意識がなかったので……」
というか、意識を失っている間に獣化が解けたのだろう。
真っ裸で、しかも脱いだはずの服も見当たらないとなれば、確かに良からぬ事があったと……つまりは暴漢にでも襲われたのではないかと、そういう心配をされてもおかしくない。
「ああ、うん。本当に良かったよ…… お前が怖い目や嫌な目にあったんじゃなくてさ」
またホッと息を付きながら、シアさんはマントの中で私をぎゅうと抱きしめてくれた。
あ……
肌と肌が密着して、その感触を直に感じた。
ああ、素肌同士が触れるのって、心地良いんだ…… 今までそんな大人な経験なんてした事がなかったから、この感じは初めてだった。
「ああ、ごめんな。服、着るだろう? その間、俺は後ろ向いているから」
シアさんが焦った様に言って手を緩めた。
もうちょっと、あのままで居たかったとか、言ってしまったら困るだろうな……
* * *
バッグから引っ張り出した予備の服に着替えると、シアさんに声を掛けた。
「デニスさんが心配していますよね。本当は一度帰れればいいと思うんですけど…… すいません、魔力が足りなくて……」
「謝んな。ぶっ倒れたんだから、そこは仕方ねえよ。それより正直に言えよ? 体調は大丈夫なのか?」
「……体調は大丈夫……みたいです。多分ですけど、一度魔力が空になってしまったみたいです。それで獣化も解けてしまったんじゃないかと……」
魔力は精神力とも関係していて、気持ちが大きく乱れると魔力に影響する事もある。多分その
「あの時、酷く頭が痛くなって…… なんでかわからないけれど、嫌なものがあの先にある気がしたんです」
「あの先って、行こうとしていたあの村か? お前、行った事あるのか?」
「いや…… 覚えがないです。だから、なんでかわからないんです」
「そっか」
シアさんがポンポンと私の頭を撫でてくれると、そこからふんわりと温かさを感じた。この感じは回復力上昇の魔法だ。
「まあ、ひとまず今日は獣化も無しな。歩いて行こう」
「でも、それじゃあ着くのが遅くなってしまいます」
「お前なあ、いくらなんでも俺がそんな状態のお前に無茶をさせるような男だと思ってるのか?」
わざとらしく
「無理せずのんびり歩いて行けば、夜までにはいくらか回復するだろう? そん時に、家に帰れるようなら帰ればいいさ」
彼は私の顔を覗き込んで、ニカッと笑ってみせた。
「デニスには俺が謝るからよ。お前は安心しな」
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