第7話 松吉

父、昭太郎には一つの大きな不安が生まれていた。

息子、松吉が腹違いの姉、亜寿未に恋心を抱いているのではないか、ということだ。

自分の息子のことだ、分別はあるはず。間違いは犯さないだろう。

そう信じていた。


しかし、ある日、昭太郎が忘れ物を取りに帰宅した時、そこで体を重ねている二人を目撃してしまう。


昭太郎は激怒した。


すぐさま、亜寿未は他家へ奉公に出された。

美代子は反対したが、昭太郎の意思は堅かった。


亜寿未がいなくなり、松吉はすっかり生きる気力をなくしてしまっていた。


父の会社に就職できたものの、仕事でまったく結果を出せないでいた。

松吉は親の七光りで入社した、そういう陰口がささやかれるようになった。


昭太郎は、研究開発部の副部長の娘に、鈴音すずねという年頃の子がいることを知っていた。

そこで、松吉との縁組を考えた。


初めは乗り気ではなかった松吉も、お見合いの席で鈴音すずねを一目見るなり、気に入ったようだった。

昭太郎は、まるで過去の自分を見るようだった。血は争えないものだ。


鈴音も、松吉を気に入り、話はとんとん拍子で進んでいった。


そして、松吉と鈴音の祝言が挙げられた。


式にはたくさんの社員が招待され、盛大に行われた。


所帯をもった松吉は、今までの昼行灯とは別人のようになり、しっかり働き、家では妻を支える良き夫になっていた。


昭太郎は安心した。

しかし、幸せは束の間だった。

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