第1章 ⑨

**********


俺は言葉を失った。


(なんでここ分かったの?てか何で生徒手帳!?明日渡せばいーのに!!)


心の中でおれはつっこんだ。



「なあ先輩、転校生ってこの子っすか?」


「ああ」


「うわ、やべーまじイイ」


「ねえ、何しに来たのー?まさかヤられ「邪魔」



雪坂が冷たくあしらった。

そして俺に近付き…



「ん」


ほら、と生徒手帳を差し出した。



「何で……」


「お前これ落としてっただろ。道に落っこちてたぜ」


雪坂が呆れたように言う。



「…ありがと」


「おう…つーかお前ここで何してんだ?新しい遊び?何か両手縛ってるし」


「遊びじゃねえよ…。襲われかけてんの俺」


「襲われ?」


俺は一息おく。



「お前が今日されてたのだよ」


「へー、よく分からねえ遊びだな」


「だから遊びじゃねえっつーの、話聞いてた!?」



「おーい、俺ら放置ですかぁ?」


「!」


「……」



あー、つい忘れてた。




「二人いっぺん…っていうのもいーねえ」


「そうだな」


北条とその仲間達は俺達に背を向け会話を始めた。



「っ……」


「……」


「…なあ雪坂」



俺は小さな声で雪坂に問い掛ける。



「なに」


「この縄解いてくんね?」


「なんで」


「いいから、早く!」


「…しゃーねえなぁ」



雪坂が拘束されている縄を解こうとした。



「っ!雪坂危ね…!」


「は?なに…!」



ドコッ。と鈍い音がし、雪坂が地面にうつ伏せになりながら倒れ込んだ。



「転校生君。勝手なことしちゃ駄目じゃん」


「そうそ、俺らがお前らと気持ちよくなる遊びをしよーっと思ったのに」



ゲラゲラと笑い声が響く。



「さ、転校生君の手を結ぼか」


「っ!」



ヤバい、確実にヤバい。どうしよう。

俺は思わず顔を俯かせた。



「…クク」


「…何だ?どうしたの転校生君」


「ははは」



……え?



俺は驚いて顔を上げる。



「雪坂?」



雪坂が急に笑い出す。それもぞっとするような冷めた声で。

そして、




「何お前ら……死にてえの?」



綺麗なその顔に笑みを貼り付けて雪坂はそう言った。



血の気がどんどん引いていく。

だらだらと冷や汗が出てきた。

ピリピリとした殺気が肌に突き刺さる。


まあ、これは北条らに対してだが…


北条らも俺と同様、顔が青ざめている。



「そんなに殺り合いたいんだったら俺が相手してやるよ」


雪坂はにやり、と口元を歪めた。



「…っつ! おい!こいつ取り押さえろ!」


「出来んの?お前らに」



何人もの仲間が雪坂に襲いかかるが、それを軽々とかわす。



「ほら、出来ない」



「くそっ!!」


仲間達は悔しそうに顔をしかめた。

そして1人の仲間が金属バットを持ってきた。


それを雪坂は呆れたような目で見てやり…



「卑怯だねぇ、人間っつーのは。俺は素手でやってるのに」


まあ人の事も言える立場じゃねーが。そうぼそっと呟く。



「うおおお!!」



金属バットを振りかざしてくるが、そいつの腹に思いっきり拳を入れる。



「隙だらけ」


そいつは呻き声をあげて倒れた。

それからも次々と仲間を倒していく。



「あっけねぇ…」



服についたゴミを払い落とす。


と、後ろから北条がナイフを持ってきて向かってきた。



「雪坂うしろ!!」


俺は必死に叫ぶ。



「あ?」


「死ねえ!!」




血がだらだらと垂れていく。

赤い赤い液体。


ナイフは雪坂の左胸付近に刺さった。



「あ……」


北条はかたかたと震える。

そしてゆっくりと顔を上げた。



「え?」


目を疑う北条。



刺された雪坂は何ともないような顔をしていた。

そして北条をじっと見つめる。



「あ…、ああ……」



北条の顔がどんどん引きつっていく。

そしてーー



「何?こんなガラクタで俺が死ぬとでも?」



怖いくらい綺麗な笑みを雪坂は浮かべ、北条の胸倉を掴み蹴り飛ばした。

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