第1章 ⑧

*********



「…ん」


ゆっくりと意識が浮上していく。


(あれ…?俺どうしたんだ?確か亮たちと別れてバイト行こうとして後ろからーー)



「!!」


一気に目が覚めた。



「よう、お目覚め?高瀬くん★」


暗闇でよく顔は見えなかったが、顎を指で持ち上げられ顔を近付けられ分かった。



「…てめえ」


俺は苦々しく口元を歪める。

手は後ろでロープで拘束されており身動きが取れなかった。



「おい!北条さんに向かって何だその口の聞「落ち着け」


殴りかかろうとした仲間を北条が宥める。

俺は顎に添えてあった北条の手を振り払い、冷たい声で呟いた。



「おい」


「何?」


「お前、一体何がしたいんだ」


北条は口元を歪め笑みを浮かべながら答えた。



「今日いい所を邪魔されて、俺らすっごいムカついてんだよねー、だから仕返しをしよーと思って」


「……」



忘れかけていたーー

今日の事。

ああ、俺はここで殴られるのか…



「仕返しってなんだ?俺を殴るのか?やってみろよ」


口ではそう言ったものの内心はとても不安だった。



「おうおう、そんなに睨むなよなー。ま、可愛いからいーけどね」


「…は?」


そう言うと北条の野郎は俺のネクタイをしゅるりとはずした。

そしてシャツに手を掛けボタンを外し始める。



「っ!?」


いきなりな事で頭が追いつかない。



「はっ?ちょ…何…!」


「ナニって…?」


北条はニヤニヤしながら答え、こう言った。



「お前反応良さそうだし、顔可愛いしな。転校生君でもいーんだけど」



これから「何」をされるのか大体の予想がついてしまい、俺は顔を引きつらせた。

男と!?

気持ち悪い、いやだ。



「っ…やめ…」


俺の抵抗も虚しくどんどんボタンが外されていく。



「怯えた顔もいいねー、余計そそられる」


「なーなー、俺もヤらせろよ」


「俺もー」


「ククッ、いーぜー」



北条が俺の胸に顔を埋めようとした。



カツンーー



「……?」



誰かの足音が微かに響いた。

足音は真っ直ぐとこちらの方向へと向かっている。


ああ…また先輩の仲間か…



「何だ?」


北条が後ろを振り向く。

仲間も後ろを見た。


どんどん近付く足音。

だがあまりよく見えない。



「おい、ちょっと見てこい」


「はっ、はい」


仲間の1人が足音のする方向へ向かった。

しばらくしてーー



「うわっ、この子ちょー綺麗!」



見に行った仲間がそう叫んだ。

そして、




「高瀬ー、生徒手帳落ちてたぜ」



低く、そして掠れた声。

雲の合間の月に照らされた整った顔。


思わず目を見開く。



「雪坂!?」



雪坂達也だった。



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