他国の住人

RIISA

他国の住人

むかしむかしあるところに、ハレの国とクモの国がありました。

ハレの国の住人は、毎日夜遅くまで酒を飲みどんちゃん騒ぎを繰り返していたため、「陽キャ」と呼ばれていました。

対して、ハレの国に隣接するクモの国の住人は静かに暮らし、「陰キャ」と呼ばれていました。

ハレの国は、毎晩おこなう宴によって、無意識的にどんどん自国のテリトリーを広げていきました。

それにより、クモの国は小さくなっていきました。


「八雲くん!次、移動だよ?」

隣の席のヨーコの言葉で現実に引き戻される。

いつの間にか数学の授業は終わっていた。次は科学の授業だから教室移動だ。心の中でガッツポーズをした。


ヨーコのまわりには、髪を茶や金に染めた男女が集まる。

さらに、制服を着崩し、大きい声で話す彼らは、僕の世界でいう「ハレの国の住人」、つまり陽キャだ。

茶髪や金髪の男女がヨーコの席に群がるせいで、僕の席はだいぶ狭く感じられた。

物理的にというか、空間が狭い。酸素も足りていないようだ。

こんなこと、陽キャのヨーコには分からないだろうな。


「はじめまして、ヨーコです!」

最初に声を掛けてきたときから、ヨーコはTHE・陽キャだった。

「はじめまして…苗字は?」

「ハルヒ。晴れの日で、晴日。でもヨーコって呼んでね!よろしく、八雲くん!」

自分のことは名前で呼ばせるのに、僕のことは苗字で呼ぶんだな、と不思議に思ったが、陽キャはよく分からない生き物だ。

素直に従う僕も僕だが、親しみやすい人柄もあるのだろう、彼女のことをずっとヨーコと呼んでいる。


ヨーコは誰に対しても明るく、やさしい。

他の陽キャ友達とゲラゲラ笑っていたかと思えば、お腹が痛いと言っている子を保健室に連れて行ってやったりするし、陰キャの僕とも楽しくおしゃべりをするし、過去には僕が授業で当てられる問題の答えを見せてもらったこともある。


陽キャは苦手だ。

でもそうやって一括りにするのはもったいない。

陽キャも自分と同じ人間だ。一人一人、いいやつなんだ。

その証拠に、ヨーコはめちゃくちゃいいやつだ。

「ヨーコ、僕と仲良くしてくれて、ありがとう」

「え?」

唐突に言ってしまったから、ヨーコはかなり驚いたようで、勢いよく僕の方を振り向いた。

それと同時に、彼女の手からノートが落ちた。

その慌て具合に思わずフフッと笑って、僕はノートを拾ってあげた。

ふと、表紙に書かれた名前が目に入った。

『晴日 洋子』

陽キャの"陽子"じゃないのかよ。

と思ったことは、内緒にしておこう。

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他国の住人 RIISA @riisa_

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