一、めだか子ちゃん。

 本当の話さ、本当の。

 そう言ったのは、他でもない。

 その言葉にめだか子ちゃんは、驚いた顔をしてこちらを見たのだった。


 めだか子ちゃんは、本当に可愛かった。なによりも証明できる。本当のメダカのようにスイスイと何もかもを置き去りにして、歩いていく。そんなめだか子ちゃんは、とても可愛い。

 だが、今回はそんなことを言っていてはいけなかった。

 あまりにも距離が近いのだ。めだか子ちゃんと。

 それだけで陸に上がった魚のように、息が上がる。

 めだか子ちゃんは、そんなこと気にすることはなく、先ほどの話を振ってきた。


「ほんと? 私はそんなことないと思ったのだけど。実際に、私は見たことがないからなんとも言えないけれどね」


 なんて答えるめだか子ちゃんだけど、事実は異なり一緒に見ているのだ。

 彼女は彼女なりに、気を、遣っているのだろう。たぶん。

 だけど、めだか子ちゃんは、それをないことにしたいようだから、気にしないで話を続けることにした。

 一つづつ、丁寧に話を続けるのは明らかに難しいことではあるが、説明がなければないで、めだか子ちゃんはまた身を乗り出してくるに違いない。

 だから、一つ一つ丁寧に。

 言葉を紡いでいく。

 話している途中ふいに、どこからともなく風が吹いたかと思うと、めだか子ちゃんの髪の毛が揺れた。

 染めていないのに、少し楊貴妃メダカのように橙色のような、セピア色のような、古ぼけたような、そんな綺麗な色の髪の毛。

 いつもメダカの尾鰭のようにポニーテールにして、リボン付きの髪留めを使っている。

 めだか子ちゃんは、髪の毛なんて気にもとめず、話に聞き入っていた。でも、その髪の毛がなんとも美しくて時折言葉がつっかえてしまう。そんなところを急かすかのように、めだか子ちゃんは「早く早く!」と言うのだった。

 そんなただ当たり前の仕草でさえ、めだか子ちゃんは可愛いのだ。


「だから! そこがわからないのよねえ」

 集中できていなかったようで、めだか子ちゃんからダメ出しが入る。でも、ここの場面はどうにもこうにも説明のしようがないというか。

 関係のない話であり、とても関わってきている話であるのだ。だからこそ、説明の仕方が難しいのだ。

 なぜなら、覚えているような、いないような、霞んで見えない、そんなことだからだ。

 いや、もう違うのだけれど。

 違うからこそ、この葛藤はあるのだろうな。

「かなはねえ、思うのよ。てるはまだいるって」

 目が合うのにめだか子ちゃんはその先の遠くを見ていた。目は、合っていなかった。

 勘違いの何者でもない。

「だから、てるは戻ってくる」

 そもそも、話してさえいない。

「かなは、信じてる」

 周りには、見えていない。

「かなの言葉届いてる?」

 話しかける可愛いめだか子ちゃん。


 と、。


 だからもう泣かないでほしいと切に願った。

 だけど、まるで幹之メダカのように煌々とした部屋の中にいるめだか子ちゃん。

 心に深海メダカのようなブルーを灯しているめだか子ちゃん。

 黄冠白菊のようなところを見つめているめだか子ちゃん。

 紅ほっぺメダカのように頬を赤くしているめだか子ちゃん。

 銀河メダカのようにその頬をつたっていく星をほかりっぱにしているめだか子ちゃん。

 ロングファンメダカのようにその後をついていく——。


 めだか子ちゃん。


 さようなら。

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