第4話
「なんかさ、暇つぶしにあなたの部屋を家捜ししていたらば、予想外の物が見つかったのだけれど」
「えーと、それは…。うん、そうだ。君は小学校で『気まぐれによそのお家の中をひっかきまわしてはいけません』って習わなかったかい?」
ううんと首を振るので、こちらは肩を落とす。
「そもそも何故そんなことを」
「それはだな、春の本を発掘して君の性的嗜好を分析し、こちらの気分次第でオンオフをしてやろうと思いまして」
むぅと唸る。
「もし、裸の男の子ばかりだったらどうする訳。こちらは男装くらいでは納得しないぜ」
「うーん、その場合は自身の性転換は諦めるよ。誰しも一回くらいは異性の身体になってみたいと微かに夢想したりするものだが、さすがにね、リスクが高すぎるよ」
ふぅ…。ひとまず、胸をなでおろす。
「ところでさ、君は『実は』天才だったのだね」
ああ、怒っている。実に不快な表情をされている!
まずは、そのピアニストのように繊細な指を広げて勉強机の天板に置く。「ここには一体何を入れるべきなのか」と人類の多くが悩むであろう世界地図のように広大で薄っぺらいひきだしがまさにひきだされる。その中には、まさか竹の中と間違えた訳でもなかろう、きらめく金色の円盤がその身をざっくりと潜めていた。
「おお、大漁だね」「バカじゃねぇの」
一瞬、心臓が止まったかと思った。何故、この金の山を見てそんな正反対の感想が零れ出るというのか。これが巷で噂の「愛情の裏返し」というやつかも知れないと思い至った。が、こんなにも痛い愛ならば熨斗をつけたとしても今すぐにお返し願いたい。
そうこうと思い悩んでいるうちに、彼女は部屋中を移動してまわり、手当たり次第にあちこちをご開帳していく。
キャビネットの中の剣を跳ね返すわけでもない役立たずな盾。
クローゼットの中に眠るすっかり丸まり癖のついてしまったストレートに戻りきれない紙たち。
彼女は、これまでになく見事なしかめっ面をしていた。彼女が振り返り、僕の額に人差し指を突きつける。
「この天才が」「あはっ、二回目だね。また、言われちゃった」
ひきつりっぱなしの表情筋に喝を入れ、無理にいつもの軽薄な笑みを返す。が、すぐに泣きっ面に戻ることになる。泣いているのだ。僕が、ではない。彼女だ。顔中をぐしゃっとゆがめて、興奮で顔を真っ赤にして、幼児のように全身で泣いているのだ。
ああ、詮無い。詮無い。大学まで行ったって、こんな時、大好きな女の子を慰めることもできやしない。
「嫌だ、嫌だ。悔しいよ。お前なんかに負けたくない」
本人もそんなことは決して望んでいやしないのに、僕はわざわざ哀しい哀しい宣戦布告を彼女に強いてしまった。
嫌われた。
もう何を言ったって、したって、僕は彼女を傷つけることになってしまうのだろう。しゃがみこんで頭を抱えて泣き叫ぶ彼女を悲痛な面持ちで見下ろした。
ああ、遠い。遠いな。
「ねえ、きっと僕らはすでにただの昔々に同級生だっただけの関係に成り下がってしまったかもしれない。だけどね、恐らくはお互いに家族以外で初めての相思相愛だっただった者同士として独り言を言っておきたいんだ」
横隔膜を痙攣させている彼女はこちらを見ようとはしない。当然だ。勉強机の前の椅子に腰掛ける。涙で歪んで、金の山は金の海に見えた。
「僕は君に勝ちたかったんじゃない。君の良きライバルでありたかったんだ」
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