第21話

 午前8時半過ぎ、灯輝の家のチャイムが鳴った。ネットで頼んでいた通話SIMと中古スマートフォンが同時に届いたのだった。母親の束彩つかさは既に出かけている。灯輝は荷物を受け取り2階へ上がった。

「これもこの時代ならではのものだな」

「面白いですわ」

 スマホのセットアップを眺めながら、符姿のガルガと香天が楽しげに話している。

「俺からしたら盤都羅の方がトンデモ技術だよ」

 灯輝は素直な感想を言った。汐春が盤都羅を研究したいというのも理解できるほどであった。

 ふと、灯輝はセットし終えたばかりのスマホに、1件のショートメールの通知があることに気付いた。友人や母親であれば通常やり取りには別のアプリを使う。灯輝はそのメールを開き、あっと声を出した。



 突然で申し訳ありません。臼杵です。こちら、風早さんの番号でよろしいでしょうか。



 臼杵うすきみどりからであった。連絡先の同期も済んでいたため、しっかりとその名前が表示されている。みどりも新規のスマートフォンを用意できているようだった。

「臼杵さんから連絡きてる」

 どうしよう、という意味を込めて灯輝は二人にそれを見せた。

「おお、良かったな。我らを無視することはなかったようだ」

「どうにか再会の叶うようしていただけると助かりますわ」

 特に参考にならない感想が返ってくる。

 灯輝は黙考した。着信の通知がないということは、みどりは最初からこのメール1回しか打っていないはず。向こうもこちらとどう接したものか悩んでいるのではないか。この内容で自分が何も返信しなければ、関わりを断つくらいの気持ちかもしれない。

 灯輝は返事を打ち始めた。



 風早です。お互い大変だと思います。自分達に関わることを書類にまとめたので、読んでいただけたらと思います。下記がファイルの置き場です。



 灯輝は作成した盤都羅に関するテキストをクラウドに保存していた。そのリンクを添付し、よければ閲覧後にまた連絡をもらいたいと追記して、みどりへ送信した。これでどうなるだろうか。

 その後灯輝はクラスメイトから届いていた気づかいのメッセージに対し、体調は問題ないがしばらく学校へは行けないかもしれない、と返した。スマホでの所用を終え、今度はパソコンで昨日の汐春との会話で得た情報の編集へ入る。



 作業中の勉強机の上でスマホが鳴ったのは、午後1時前だった。それはショートメールの通知ではなく、着信であった。画面には臼杵と表示されている。灯輝は少し躊躇ためらいながら応答を押した。

「も、もしもし」

「あっ、風早さんですか? 一昨日おとといの…臼杵です」

「はい…どうも…」

 お互いぎこちない感じで会話がはじまる。

「ファイル、読みました。お昼休み中なので、スマホでざっとですが…なんというか、まだ信じられません」

「ですよね…でもこれは確かに――ん?」

 机に置いている左手を符姿の香天がつついている。話したいと言っているようだった。

「ちょっと待ってください、ハンズフリーにします」

 灯輝はスマホを香天の隣へ置いた。

「もしもし、香天です!」

 元気に話しかけ、灯輝は思わず笑いそうになった。

「あっ、あの、はい。あの、紅い女の子ですよね」

 明らかな動揺が伝わってくる。

「そうです! ミドリ、また会いましょう! 私の局者はあなたなのです!」

「えっと、はい、あの…風早さん?」

 これはまずいと思い、灯輝はスマホを取り上げハンズフリーを解除した。

「あ、すみません。代われと言われて」



 その後の会話で、灯輝は昨日の汐春との出来事も明かした。汐春が皆での相談を希望していると伝えると、みどりはそれならばと承諾した。いつなら都合がいいかという話では、明後日あさって、日曜日が最短で空いているということだった。灯輝は汐春にそれを伝えるので、また自分からの連絡を待ってほしいとみどりに言った。最後にメッセージアプリでの互いのIDを教え合い、灯輝は通話を切った。

 灯輝は自身の作成したファイルへのリンク、そしてみどりとの通話内容を、汐春のメールアドレスへと送信した。

 汐春からの返信はおよそ1時間後であった。メールには灯輝の資料を褒める文言と、具体的な待ち合わせ場所及び時間が記載されていた。灯輝はそれをみどりへと伝え、了解を得た。灯輝は大人に交じって、自分が何かひとつ大きな仕事をこなしたように感じた。

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