第15話
空気が張り詰めた。
「他の
灯輝が言い
香天が
「ん、どっち?」
「鏡に向かって、
「んん~、今の私には感知できないかも。相手はどうなのかな。こっちに来そう?」
「まだなんとも言えぬ」
灯輝は自分の生唾を飲む音をハッキリと聞いた。まさかまた昨日のような悲劇が起こるのか。最悪の事態を思い浮かべずにはいられなかった。
「ちょ、ちょっと待ってガルガ、向こうもガルガに気付いてるかもってことだよね!?」
「そうなる」
「ひょっとしたら、この家の辺りで大変なことになるかもって話!?」
「ありうる」
「それはまずいって!!」
盤都羅とは―――
灯輝はその脅威を改めて知った。自分が関わったものは、決して生半可な気持ちで触れていいものではなかったのだ。
盤都羅は既に始まっており、灯輝は
「二人とも、
灯輝はリビングへと移り声を荒らげた。
「む? それだと相手の動きも」
「いいから早く!」
一瞬の間。
「心得た。局者の
ガルガの
「ここにいて」
二枚に玄関で指示し、2階へ駆け上がる。自室の椅子の背からアウターを
「またポケットに入って」
シューズを履きながら促す。二枚が服に滑り込むと同時に家を飛び出した。自転車を引き出す。黄色い軽の側面に少しぶつけた。構わず思い切り漕ぎ出す。どこへ。
比較的近く、人の少ない所。
―――思いついた。大きな森を持つ、
灯輝が全力で自転車を走らせる間、駒の二人は何も言葉を発しなかった。
灯輝は公園へ着くと、正規の乗り物置き場ではない、茂みの裏に自転車を隠した。周囲を見回し、
「この辺りでいいかな」
軽く息を切らした灯輝がようやく口を開いた。二枚は左右のポケットから顔を出す。
「ガルガは依姿になって。香天はとりあえずそのまま」
風圧により落ち葉が円状に舞い散り、続いて刹那の発光。
「ここならこんな格好でも誰にも見られないしね。それでどう、ガルガ。まだ感じる?」
依姿を得た灯輝が言った。
「うむ。先程もよりも少し近い。ゆっくりと移動――こちらへ向かっているようだ」
灯輝は険しい表情となった。
「闘うことになるかもって話だよね」
「そうだトウキ。それが盤都羅だ」
「でも話ができそうな相手ならさ、話そうよ。ルールだってまだ分からないんだから、争わない選択だってあるかもしれない」
「ごもっともですわ」
頭上で符姿の香天が応える。
「止まったぞ。今、トウキの向いている方角、直線で700m程度か」
ガルガが低い声で伝えた。鶴見川の辺りだろうか、と灯輝は考えた。さすがに目視では確認できない。
そのまま10分、動きがないまま時間が流れる。
「……騒ぎが起きてる気配がないなら、このまま待つよ。相手もきっと様子を見てるんだ」
「依姿の状態ってさ、暗視のような効果もあったりする? 夜でも大丈夫みたいな」
「ウム。完全な闇夜でも転ばぬ程度には見えるはずだ」
つくづく便利な状態ではあると灯輝は思った。気温は下がっているはずだが、肌寒さも感じない。
「動き出した」
ガルガが言った。
「これまでの接近よりも速度が出ている。間もなく来るぞ」
灯輝の膝が微かに震える。
「
香天は枝から飛び降りながら変化した。灯輝はガルガの言う方向へ目を凝らす。
「今どのへん?」
「この森の手前で停止――いやまた
徒歩に思える、とガルガは言った。灯輝の頬を緊張の汗が伝った。
やがて、落ち葉を踏む音と、一人の人間の影が近付いてきた。間違いなく灯輝の来た歩道を歩いている。相手はライトなどは持っていない。依姿でなければ暗闇しか見えなかっただろう。人影は停止した。まだ距離はあるが、灯輝はその姿を木陰から確認できた。
歳は中年、いやもっといっているだろうか。標準かややずんぐりとした体型で――奇異なものを
眼鏡を掛けた顔が、こちらを向いた。灯輝は思わず身を潜めようとしたが、すぐに無意味であると思い直し、逆に一歩踏み出した。もとより香天は隠れてもいなかった。男は灯輝に向かって、戸惑うように右手を上げた。
「や、やあ…」
そう掛けられた声に、何と返したものか分からない。灯輝もガルガも香天も、黙していた。
男はゆっくりと近付いてきた。
「驚かす気はないんだ。その、君も局者なんでしょう」
君も、と確かに男は言った。
「話をしに来たんだ。私は山梨文化大学の教授、
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