第13話

 灯輝は横向きで目を覚ました。目ヤニのついたまぶたで数回まばたきをする。

 思考が定まらない。ゆっくりと上体を起こし、頭を掻く。細めた目で部屋の掛け時計を見ると8時を回ったところだった。焦りを感じ、アラームは…と考えたところでようやく、そもそもセットしておらず、急ぐこともないと気付いた。

「目覚めたかトウキ、おはよう」

「おはようございます、トウキ」

 ガルガと香天の二枚は机から灯輝を見ていた。

「えっと…おはよう」

 灯輝はベッドから立ち上がり、大きく伸びをした。ついでに欠伸あくびもでる。

「二人はその…寝たの。眠る必要があるの」

 まだはっきりしない意識で灯輝は訊いた。

「うむ。人間と仕法しほうは異なるが、休息は取る。体力の回復を得るのは同様かもしれぬ」

「へー…」

 それだけ返すと、灯輝は1階へと下りていった。



 朝食を取りながら、灯輝は今後のことを考えていた。

 心身の状態としては明日からでも学校に行けなくはない。多少大変だが自転車でも通える距離なのだ。その場合はやはり二人は家に置いていくことになるのだろうか。母親がいる時も当然ある。どこか隠れ家のような場所が必要だろうか?

 後からヒラヒラと下りてきた二人に向かって、灯輝はそんな考えをぶつけてみた。

「基本、我らはどこにでも付いていけるが、無理であるなら母親に察知されぬよう家に留まろう」

 ガルガの頭には同居以外の選択はないようだった。

「う~ん。学校までは連れていけないかなあ……家に置き去りも不安だけど、それは仕方ないか」

「我がいつ局者を必要とし、また局者がいつ我を必要とするか、分からぬのだ。そこを踏まえてもらいたい」

 灯輝は考え込んだ。自分がガルガを必要とするケースとは。日常生活を送る上ではあり得そうにないが、昨日のエビが再び現れるといった事も想定できる。被害が出るようならまた身体を貸すことに…? 煩悶はんもんは消えなかった。



 午前9時半を過ぎたところで、灯輝は長袖のTシャツにライトアウター、ジーンズに着替えた。

「トウキ、どこかへ行くのか? 学校ではなさそうだが」

「スーパーへ買い出しだよ。もう冷蔵庫からだし。一緒に来る?」

 最後のは冗談のつもりだった。だが二枚は円を描くように舞った後、アウターの左右のポケットに収まった。いや上辺がやや、はみ出ている。灯輝は反応に困ったが、観念して玄関に向かった。

「大丈夫だ。少しでも紙が出ていれば、前は見える」

「へえ」

 何が大丈夫なのか分からなかったが、大したことでないと判断した。

 灯輝は狭い駐車スペースに軽自動車と駐めてあるカゴ付きの自転車を引っ張りだし、またがった。

 一度だけペダルを踏み込み、自宅から続く緩い坂を下っていく。

 風は、昨日よりも少し冷たかった。



 男は遠くから、クレーンが車両を引き上げる様子を眺めていた。その目には不安と決意とが入り混じっていた。

「二人…いや四人を見つけないと。まずはそこから」

「そうじゃな。落ちたのは朝の上りの電車。となれば乗客の住処すみかはここより下り方面――その雑な推理、当たっているといいのう、シオハル。ふぇふぇ」

 男の周囲には、やはり誰もいなかった。

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