操り人形

わたしはえらい子だ

いつも父上と母上のいうことを聞いてきた

勉強はいつも頑張ってテストは満点じゃないと許されない

いつもトップでいなさいと言われ私はそれを厳守してきた

友達は親がお金持ちで上品と言われている子としかなってはいけないと言われた

ゲームなんて低俗なものは触ることすら禁止された

みんなの目がキラキラ輝いているのをみてやってみたいと思ってもみたりしたけど

そんなのは駄目だ、父上や母上に叱られてしまう

ファーストフード店は下品で体に悪いから

絶対に入ってはいけないと言われたので入らないでいた


いつも言うことを聞いてきた私には何個か私だけの秘密がある


一つ、誰かの声や姿が見えることだ

恐らく人間の域には入っていない者たち

父上や母上に言っても嘲笑われて気味悪がられるだけだ

わたしは叱られるのが嫌いだ

わたしは嫌われるのも嫌いだ

大学生になった今でも、父上と母上の言うことは聞き続けている


一つ、何をしてもやる気が出ない

肩こりや頭痛も相まって体がだるい

集中できないしだんだん憂鬱で涙が出てくる

普通はそんなことないんだろうけど

何故か気づいたらこうなっているの


さて、こんなこと思っているくらいなら勉強しないと

あ、鉛筆を落としてしまった

あーもう・・・いけない、こんなことでイライラしていたら

最近は少しのことでイライラしてしまう

はぁ、ちゃんと勉強しないと


勉強をしていると少し眠い

少し前から父上や母上からのあたりが強くなっている

叱られているせいもあってか眠いのだ

ちゃんと勉強しているのに、そう思っても何も言わない

ただただ死んでしまいたいと思うだけ


誰かが階段を上がってくる

今日勉強した分の確認だろう

いつもより少し多めにやった今日の反応はどうだろうか


扉があく、父上だ

第一声はもちろん


「今日やった勉強の範囲を見せなさい」

「はい」


今日は叱られないはずだ

勉強の方法を変えていつもよりもたくさんの時間と労力をかけたから


「・・・なんだこれは、こんな勉強の仕方は教えていない。何をしているんだ」

「・・・すいません。これからは勝手な行動は慎みます」

「すいませんではない、申し訳ありませんだ、何度言ったらわかる。それと、これからはという言葉は前にも言っていたよな。改善されていないの威張ったことを言うのではない」

「申し訳ありません。改善できるよう努力します」

「努力するのではない、改善するのだ。分かったか」

「・・・承知いたしました」


もっと頑張りなさい

そう言い残して父上は扉を閉めた

・・・また叱られてしまった

勉強をもっと自分で考え、進んで取り組むように言ったのは父上のはずだ

死にたい、叱られるのは嫌いだ

今までで褒められたことがあっただろうか

少なくとも記憶にはない


また誰かが上がって来る

おおよそ母上であろう


扉があく、やはり母上だ

なんと言われるのだろうか


「また、父上を怒らせたの。本当にできない子を持つと大変だわ」

「・・・申し訳ありません、母上。母上に迷惑が掛からないようこれからは父上から叱られないよう、善処します」

「はぁ、まあいいでしょう。あと、そんな自分が世界一不幸だと思っているような顔は何?私たちにケンカを売っているの?こんなに尽くしてあげてて」

「いえ、そういうわけではございません」

「いい?あなたは知らないと思うけどあなたより不幸な人たちなんてごまんといるのよ。どこにも不自由がないこの生活に文句があるならそんなのは世界中を見てから言いなさい」

「・・・申し訳ございません」

「ちゃんと勉強するのよ。少しぐらい頑張りなさい」


そういって扉を閉めた

はぁ、なんでわたしは叱られたのだろう

こんな人生、意味あるのかな


もぅいいや


気づくとわたしの体はひとりでに動いていた

確か一階の倉庫に縄があったはずだ

父上と母上が何か言っている

だが聞こえない、聞かない

一直線に進んでいって縄を見つける

父上も母上もわたしのことを追ってきたようだが

顔を見て一歩あとずさる、そんなに自分の子の顔は怖いですか?


自室に戻り準備に取り掛かる

前まであんなに色鮮やかだった自室はもう色のない白黒に見える

こんな世界から逃げ出したい、この世界もわたしを必要とはしてない

ロープを吊るして輪を作るあとは首に回すだけだ


「死にますか?」


いつも聞こえる声とは違う優しい声、それはきっと幻の声

だけどどうせならば最期に少し聞いて死のうかな


「あなたは誰ですか?」

「ただの通りすがりの老人です、ところでなぜあなたは首を吊ろうとしていたんですか?」

「いえ、お気になさらず。ただ、今までのストレスが爆発しただけです。父上も母上ももう嫌いなんです、うんざりなんです。いつもいつも、あの人たちの言うとおりにしてきたのにずっと認めてもらえない。それならまだしも、改善しどう頑張ったって叱られる。何故でしょうか?小さいころからずっと言いつけを厳守するのにはもう疲れたんです。だから死ぬ、それだけのことなんです」

「ずいぶんと達観していらっしゃるんですね。成人して間もなさそうな姿なのに、死を前にしてそこまで冷静にいられるのは生をあきらめている証拠ですか」

「あの人たちの言いなりになるのは今日で終わりです。束縛から解放されるため、自分なりの自由の手に入れ方はこれが一番簡単ですぐできる。私こう見えてもなかなか頭いいでしょう?あはは、たとえ父上や母上に認められなくてもね」

「そうですねえ・・・」


今回の幻はちゃんと人だし、日本語をしゃべっている

きっと死を目の前にして、脳がいつもとは違うものを映し出しているんだ


「後悔はないのですか?」

「ありますよ、あるに決まってるじゃないですか。自由のない生活、学習の強制、一番でいないといけないプレッシャー、自分では決められもしない友達、父上や母上からの叱責、これが18年間続いているんです。もういいでしょう、解放されたいんです。本当に」

「そうですか、不躾なことを聞いてしまい申し訳ありません」

「いえ、もう大丈夫です。あなたのような人がいてよかった。これで思い残すことが少し減りました」

「ありがたいお言葉ですねえ。ですがどうせなら、もう少し減らしてみませんか?」

「え?」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「あはははは!気持ちいい!気持ちがいいってこういうことだったんだ!」

「そうですか、それは良かった」


いつの間にか家の外に出ていた

ただすごく楽しい

縛られていない、自由な世界


「みて!綺麗な沢山の光!なんであんなに光っているの!」

「あれは夜景というものです。人々が集まっている証拠です。本来人はあのように集まって、助け合って生きていきます。助け合わず励ましの言葉ももらえず愛情もかけてもらわずにここまでこれたあなたは、あの西日のようですね」

「あっちにある一つの大きな光は太陽だね!あっちもきれい!」

「そうでしょう、では次に行きましょう」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「何この食べ物!味が濃くておいしい!それなのにこんなに安いなんて!」

「それはハンバーガーとフライドポテトです。ジャンキーは味は美味しいですよね」

「うん!美味しい!ホントにおいしいよ!」

「食べ終わったら次のことをしに行きましょうか」

「うん!でもわたしお金持ってないよ」

「大丈夫ですよ、私が払いますから」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「これがゲーム?すごい、自分の持ってるこの機械を動かすと画面がちゃんと動くんだね!実物は初めて見た!」

「あなたが持っているものはコントローラーといいます。画面の中のキャラクターを操作できるものですよ」

「凄い、凄いね!こんなに楽しいものなんて!・・・ありがとうね、こんなにいろいろやってもらって」

「ええ、大丈夫です。どうです?死にたいですか?」

「・・・ううん、死にたくない。だけど、こんなに世の中に楽しいモノがあふれていて、それをわたしが知っても家に帰ったらこんなことはできなくなる。だから!もう、今楽しい瞬間に記憶を塗り替えてから死ぬ、それが一番いいかもしれない」

「死にたくないと思っているということは、まだこの世界に希望を抱き可能性があると信じているということです。私があなたを外に連れ出しあなたと一緒にやってきたのは、あることを感じてもらいたかったからです」

「それは何?」

「あなたは死ぬということで親に反抗しようとした。しかし、世の中にはこんなにも色々なもので溢れているのにそれを知らずに死ぬのはすごく寂しいものです。死の持つ恐怖はただ一つ、それは明日がないということである。という言葉があるように、人間という種は明日がないことの恐怖は大きい。あなたも、広い視点から世界を知った今死にたいと思っていますか?」

「ううん・・・でも、父上と母上が・・・」

「遠いところに逃げればよいのです。たとえあの人たちが娘を愛していたと考えても、それを感じることのできなかったあなたにはあの人たちに未練はないでしょう。勉強とは勉めることを強いるということですが、勉強ではなくあなたの意志で学習しませんか?世の中を」

「・・・はい、したいです。どうすればいいんですか?」

「それは、もうあなただったらできます。情報があふれてるこの世の中で探すことは簡単なはずです。群れになっていなかったあなたなら」

「ありがとう・・・ございます。頑張ります、有難う・・・!」


では、と言ってどこかへ行って仕舞った

色のある世界だ、もう前のわたしじゃない。親の操り人形では、ない

いこう、もっと他の方法で反抗できるはずだ


幻覚だと思っていたあのお爺さんは一体何なのだろう

だけどこれだけは言えるきっとお爺さんが伝えたかった事


死だけが唯一の本当の締め切りであって、生きている限り、学ぶべき事が未だある

ということは

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