第43話
厄介な敵が、ようやく力尽きた。
オーガキングは仰向けになって倒れているミヤモトに近づく。
(ヤット、シンダカ)
大量のエネルギーが自分の中に入ってくるのがわかる。
オーガキングは特殊な
倒した敵からエネルギーを得ることができるというものだ。
敵が強いほど、数が多いほど得られるエネルギー量は増す。
さらにオーガキングはそのエネルギーを使って、自らの配下となるオーガを生み出すことができた。
通常のオーガキングにそんな力はない。ただオーガ種を支配下におき、操ることができるのみ。
魔法が使えたこともそうだが、このオーガキングは特殊な
(ダイブ、ヤラレテシマッタナ)
途中から参戦させた三体のオーガジェネラルは、すべて倒されてしまった。
他にも配下のオーガ種が多数――。
(オレヒトリデタタカッテイタラ、ドウナッテイタカ)
相討ち。
いや、おそらくは負けていただろう。相手にも相当な深手は負わせられただろうが。
だが、配下たちのおかげでこうして勝利することができた。
オーガキング自体は軽傷だった。体力や魔力はそれなりに消費しているが。
ただそれも、少し休めば回復する程度のものでしかない。
(サカラウコトノナイヘイトイウノガ、コレホドマデニベンリダトハ)
とはいえ、ミヤモトに勝利する代償としてかなりの戦力を失ってしまった。
補充が必要だ。
魔物の言葉を使って、離れた場所にいるオーガたちを呼び寄せる。
「ハイカドモ!! オレヲマモレ!!」
オーガキングは新しいオーガを生み出すことにした。
その際に無防備になるので、配下のオーガたちに自分を守らせるのだ。
今度はどんなふうに配下を生み出すべきだろうか。
オーガキングは、生み出す配下の質や量をある程度コントロールすることができた。
(ザコヲイクラフヤシテモ、イミハナイ……)
ミヤモトとの戦闘で、それを痛感させられた。
(コンドハトビキリツヨイノヲ――)
今までに倒した敵と、今回ミヤモトから得たエネルギー。それによって、過去最大の量のエネルギーが溜まっている。
それを使って、最強の兵士を作るのだ。
(サイキョウノシモベヨ、ウマレロ……!!)
オーガキングの足元から黒い影のようなものが生じ、円形に広がっていく。しばらく経つと、影が盛り上がって人型のシルエットのようなものが形成された。
シルエットはすぐに魔物の姿に変わる。
現れたのは、紫色の体をしたオーガだった。
ただし、身長がオーガ種にしてはかなり小さい。
オーガの身長は2.5メートルほどだが、この紫のオーガは2メートルほどしかなかった。
「チイサイ……シッパイ……?」
近くにいた緑色のオーガ種――オーガジェネラルが、そう尋ねてきた。
普通のオーガ種は言葉を話せないが、オーガジェネラルとオーガキングだけは魔物の言葉ではあるものの、会話が可能だ。
もっとも、文章で話すことのできるオーガキングとは違って、オーガジェネラルは短い単語を区切って話すのがやっとだが。
(ドウイウコトダ……?)
オーガキングがジェネラルの問いかけに答えることはなかった。
キング自身もこの結果には戸惑っていたからである。
「「「ギャッギャッギャ!!!」」」
ランク6のオーガたちが、馬鹿にしたように声を上げた。
オーガキングの配下たちの中で、彼らのヒエラルキーは一番下だ。
だからこそ溜まっていた不満をぶつけたかったのか。あるいは、「お前は俺たちより下なんだ」と教えようとしたのか。
一体のオーガが、紫のオーガに近づいていった。そして肩に腕を回し、首を絞める。
殺すつもりなどなかった。手加減をしても、すぐに相手は音を上げると思った。
だが紫のオーガは無反応だった。
効いていないとわかったオーガが、込める力を強くする。だが結果は同じ。
鬱陶しく思ったのか、紫のオーガは自分の首を絞める腕を簡単にほどいてしまった。
これにはあしらわれたオーガも黙ってはいられなかった。
格下のオーガに恥をかかされたまま引き下がることは、プライドが許さなかったからだ。
相手が自分より格上かもしれないとは、考えもしなかった。そこまでの知能は、単なるオーガにはなかった。
「っ!?」
殴りかかったオーガの顔が驚きに染まる。
そのオーガの拳は、紫のオーガの人差し指一本で完全に受け止められていた。
今更ながら自分が遥か格上の相手に絡んでしまったと知り、怯えながら後ずさるオーガ。
一方、オーガキングは興味深そうにその光景を眺めていた。
「オイ。オマエ、アイツノチカラヲタシカメロ」
キングにそう命じられたオーガジェネラルが、紫のオーガに言う。
「オレ……オマエ……コウゲキスル……イイカ?」
紫のオーガは頷いた。
二体は他のオーガたちから離れ、向かい合う。
「ハジメロ」
オーガキングがそう宣言すると同時に、オーガジェネラルが距離を詰めた。そしてその拳を紫のオーガに向けて振るう。
紫のオーガはそれを、簡単に手のひらで受け止めてしまった。
オーガジェネラルは一瞬驚くも、すぐに攻撃を再開する。
だが、そのすべてに紫のオーガは対処した。ときに躱し、ときに流し、ときに受け止めながら。
「モウイイ。サガレ」
オーガキングがジェネラルを下がらせた。
「コンドハオレガアイテヲスル。コウゲキシテコイ」
紫のオーガは頷く。
オーガキングがオーガジェネラルの前に立った。
紫のオーガが地面を蹴る。オーガキング以外のオーガ種たちには、その姿が消えたように見えただろう。
紫のオーガが拳を振るう。オーガキングもそれに応じた。
二体の拳がぶつかり合い、轟音が鳴り響いた。
お互いに後ろに弾き飛ばされる。
「オマエノチカラハヨクワカッタ。スバラシイチカラダ。コレカラハオレノタメニツクセヨ」
オーガキングの言葉に、紫のオーガは頷いた。
予想以上の力だった。
少なくとも、自分に匹敵する実力を持っている。
できれば正確な力が知りたいが――。
戦いを続けるのは、やめた方がいいだろう。
ここから先はお互い無事では済まなくなるし、これ以上体力や魔力を消耗するのは避けたい。
このオーガの力を知りたければ、敵と戦わせて調べればいい。
おそらくその機会は、すぐにやって来るだろうから。
(コノチョウシデドンドンテキヲコロシテ、ツヨイシモベヲフヤス。ソシテ、イズレサイキョウノグンダンヲツクッテヤル)
その頃にはきっと、自分が世界を支配しているはずだ。
輝かしい未来を想像して、オーガキングは笑った。
彼は疑っていなかった。
自分が生み出したオーガたちの絶対的な忠誠を。
(今の状況は危うい。身の安全を確実なものにするためにも、手を打つ必要があるな)
だから目の前にいる魔物がそんなことを考えていたなど、知るよしもなかった。
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